なぜ不正は見逃される?横領発覚前に知っておきたい管理上の問題と万一の際の初動対応

社内で「不審な経費精算がある」「小口現金が合わない」といった不正の兆候を目にしたとき、実務担当者はどのように対応すべきか戸惑うことがあります。確かな証拠がない段階で問題を指摘すれば、自身の立場や職場の人間関係に影響するのではないかという不安から、誰にも相談できず、ひとりで抱え込んでしまうこともあるでしょう。

しかし、対応が遅れると、関係資料が失われたり被害が拡大したりするおそれがあります。他方で、十分な確認をしないまま特定の従業員を横領の犯人と決めつけ、問い詰めたり、処分したりすることも適切ではありません。

本記事では、横領などの不正が見逃される背景にある管理上の問題と、不審な動きを察知した段階で担当者が取るべき初動対応について解説します。

まずは不正の発生や長期化につながり得る管理上の問題と、確認すべき兆候についてみていきましょう。

なぜ横領は見逃されるのか?管理体制の「穴」が不正の温床に

不正行為は、個人の倫理観だけに起因するものではありません。企業の管理体制上の「穴」が長期間見過ごされることで、不正を実行・継続しやすく、発見しにくい環境が生じることがあります。横領がどのようにして発生し、なぜ見過ごされてしまうのか、まずは業務上横領罪の基本的な内容を確認します。

そもそも業務上横領とは?定義と成立する要件

業務上横領罪とは、業務上自己が占有する他人の物を横領する犯罪です。

業務上横領罪の成立には、対象者が社会生活上の地位に基づき、反復継続して行う事務として財物を管理していること、その財物が会社その他の他人の物であり、本人が委託関係に基づいて財物を占有していること、さらに、その財物を権限なく自己の所有物のように処分する行為と不法領得の意思が認められることが必要です。

例えば、会社の現金を管理する担当者が、管理を委ねられた現金を私的に費消する行為や、集金担当者が回収した現金を着服する行為などが典型例です。もっとも、会社の財産を不正に取得した場合であっても、本人にその財産の占有が認められるか、どのような権限を有していたかなどによって、窃盗罪、詐欺罪、電子計算機使用詐欺罪、背任罪など、別の犯罪の成否が問題となる場合があります。

業務上横領罪の法定刑と公訴時効

業務上横領罪は、刑法253条により、10年以下の拘禁刑に処せられる犯罪です。実際の量刑判断にあたっては、被害金額も重要な考慮要素となりますが、それだけでなく、犯行の期間・回数、計画性、手口、行為者の立場、被害弁償や示談の有無、前科前歴などの事情が総合的に考慮されます。そのため、被害額だけで、実刑または執行猶予のいずれになるかを一律に判断することはできません。

業務上横領罪の公訴時効は原則として7年です。ただし、公訴時効の起算点や進行の停止などについては、個別の事案により判断が異なる場合があります。

なお、単純横領罪や遺失物等横領罪は、業務上横領罪とは成立要件や法定刑が異なります。個別事案について、どの犯罪が成立するかは、対象財産の性質、占有関係、不正行為の方法などを確認したうえで判断する必要があります。

「窃盗」や「背任」との違いは?

業務上横領と混同されやすい犯罪に、「窃盗罪」や「背任罪」があります。業務上横領罪と窃盗罪を区別する際には、対象となる財物を誰が占有していたかが重要な判断要素となります。

窃盗罪は、「他人が占有する」財物を、その意思に反して自己または第三者の占有に移す犯罪です。これに対し、業務上横領罪は、「本人が業務として占有している」他人の物を横領する犯罪です。例えば、会社の現金を管理する権限のない従業員が、他の担当者が管理する金庫から現金を持ち出した場合には、窃盗罪の成否が問題となります。一方、会社から現金の管理を委ねられている担当者が、その現金を私的に費消した場合には、業務上横領罪の成否が問題となります。

背任罪は、他人のために事務を処理する者が、自己または第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で任務に背き、本人に財産上の損害を与える犯罪です。不当に有利な条件で取引を行う行為などについて、具体的な事情により背任罪の成否が問題となることがあります。また、インターネットバンキング等を利用した不正送金では、具体的な権限や操作方法などにより、電子計算機使用詐欺罪その他の犯罪の成否が問題となる場合があります。

このように、会社の財産が不正に取得されたとしても、直ちに業務上横領罪に該当するとは限りません。犯罪の成否は、占有関係、権限、不正行為の方法などを確認したうえで、個別に判断する必要があります。

 【担当者必見】横領が見逃されやすい職場の特徴と管理上の問題点

横領などの不正は、少額の不整合や、一見すると単純な処理ミスに見える事象を端緒として発見されることがあります。実務担当者が「何かおかしい」と感じながらも、人間関係への配慮や確証のなさから報告・相談しにくい職場環境では、不正の発見が遅れるおそれがあります。

以下では、不正の発生や長期化につながり得る代表的な管理上の問題を整理します。

業務の属人化とブラックボックス化

特定の従業員だけが特定の業務を最初から最後まで担当し、他の従業員や上司がその詳細を把握していない状態、いわゆる「ブラックボックス化」は、不正の発生や長期化につながり得る要因です。

経理処理や購買手続が属人化していると、不自然な取引や帳簿の改ざんが行われても、第三者が気づく機会が少なくなります。周囲が「あの人に任せておけば安心だから」と確認を行わず、小さな不整合を見過ごしてしまうと、不正の発見が長期間遅れるおそれがあります。

重要な業務については、手順を文書化し、複数の担当者が内容を確認できる状態を整えることが必要です。

現金管理・経費精算のルールが曖昧

小口現金の出納管理や経費精算のルールが明確でない、またはルールが実際に運用されていない職場にも注意が必要です。領収書の提出基準が曖昧である、出金伝票への記載漏れが頻発している、仮払金や立替金が長期間精算されていないといった状態では、金銭の流れを事後的に確認することが困難になります。

その結果、不整合が見つかっても、単なる計算ミスや処理漏れとして扱われ、意図的な不正の発見が遅れるおそれがあります。

承認フローの形骸化とチェック体制の不備

稟議や承認の仕組みが存在していても、上司が内容を十分に確認せず、形式的に押印や承認操作を行っている場合には、承認による牽制機能が十分に働きません。特に、インターネットバンキングの振込手続を行う担当者と承認者が実質的に同一である場合や、承認用のパスワードを複数人で共有している場合には、不正な送金の防止や事後的な責任所在の確認が困難になります。

振込データと請求書、出金伝票、承認履歴などを、取引を行った担当者とは別の者が定期的に照合する仕組みを設けることが重要です。

長期間同じ担当者が同じ業務に従事している

長期間にわたり同じ担当者だけが金銭管理や経理処理を担当している場合には、業務内容を確認できる者が限られ、不正や処理ミスの発見が遅れることがあります。特に、企業規模や取引金額が拡大しているにもかかわらず、創業時からの属人的な管理を続けている場合には、現在の事業規模に管理体制が対応しているかを確認する必要があります。

担当者を定期的に交代することが難しい企業であっても、一定期間の休暇取得、他の担当者による業務確認、定期的な内部監査などにより、特定の担当者だけが全工程を管理する状態を避けることが重要です。

横領・不正の兆候を確認するためのチェックリスト

横領や経費不正を早期に発見するためには、日頃の管理業務の中で生じる不整合を見過ごさず、客観的な資料を確認することが重要です。

以下の事情は、それだけで横領その他の不正を示すものではありません。複数の事情が認められる場合でも、先入観を持って特定の従業員を追及するのではなく、会計資料、承認履歴、アクセスログ等の客観的な記録を確認しましょう。

経理・会計上のサイン

  • 小口現金について、原因が明確でない金額のずれや端数調整が繰り返されている
  • 特定の取引先に対し、不自然な前払金や名目の不明確な手数料が支払われている
  • インターネットバンキングの出金履歴と、請求書、出金伝票等が一致しない
  • 特定の得意先に対する売掛金の回収遅延が継続し、その理由が客観的な資料で確認できない
  • 帳簿上の残高と、預金通帳や金融機関の残高証明書の金額が一致しない

業務運用上のサイン

  • 担当者が自分以外の者による業務確認や引継ぎを継続的に拒んでいる
  • 有給休暇の取得や担当交代を継続的に避け、他の従業員が業務内容を確認する機会がほとんどない
  • 金銭の流れについて質問しても、根拠資料が示されず、説明内容がたびたび変わる
  • 特定の取引先との取引について、通常の承認手続を経ず、担当者1人で処理している
  • 会計資料や取引記録を共有フォルダ等に保存せず、特定の端末や個人管理の領域だけで保管している

これらの事情にも、業務の繁忙、引継体制の不備、処理ミスなど、横領以外の原因があり得ます。本人の態度や印象だけで判断せず、取引記録や業務フローを客観的に確認する必要があります。

在庫・物品管理上の不審点

  • 帳簿上の在庫数量と実在庫数について、原因不明の大きな差異が繰り返し発生している
  • 自社商品や備品と同一または酷似する物品が転売サイト等に継続的に出品され、シリアルナンバー等から自社の物品である可能性が認められる
  • 商品の破損、返品、廃棄等の報告が増加しているにもかかわらず、現物、写真、廃棄記録等を確認できない
  • 在庫の出庫、返品、廃棄について、同一の担当者が申請から承認、記録までを1人で処理している

もっとも、在庫の差異やインターネット上の出品だけで、特定の従業員による不正と断定することはできません。棚卸記録、入出庫履歴、廃棄記録、アクセス権限等を確認し、慎重に事実関係を調査することが重要です。

いかがでしょうか。貴社の管理体制に、特定の担当者への権限集中や、形式的な承認、原因を確認しないまま放置されている不整合はないでしょうか。

次に、「横領かもしれない」と感じたときに会社が取るべき初動対応から、事実確認後の処分や被害回復、再発防止策について解説します。

「横領かもしれない」と感じたときの初動対応|事実が確認できていない段階でやってはいけないこと

社内で横領や不正の疑いが生じた際に重要なのは、対象者に直ちに問いただすのではなく、証拠隠滅やデータ消失のおそれを検討し、客観的な資料を迅速に保全・確認することです。十分な資料がない状態で感情的に行動すると、事実関係の確認が難しくなるだけでなく、新たな労務上のトラブルにつながる可能性があります。

また、調査のためであっても、権限のない担当者が従業員の私的なアカウントや私物端末の内容を確認することが許されるわけではありません。就業規則、情報セキュリティ規程、社内システムの利用規程等を確認し、法務部門、システム管理部門、弁護士等と連携しながら、会社が適法に取得・管理できる資料を保全する必要があります。

ここでは、確証がない初期段階で会社が取るべき、具体的かつ慎重な対応を整理します。

STEP1:ひとりで判断せず、社内の責任者や法務部門に報告する

不審な点を確認した担当者が、独断で調査を進めたり、問題をひとりで抱え込んだりすることは適切ではありません。担当者の権限を超えてメール、チャット、アクセスログ、防犯カメラ映像、パソコン内のデータ等を確認すると、プライバシーや調査権限、証拠の取扱いなどが問題になることがあります。そのため、まずは社内の所定の責任者や法務部門に報告し、誰が調査を担当するのか、どの範囲の資料を確認するのか、情報を共有する範囲をどこまでとするのかを決めることが重要です。

事案の内容や規模によっては、調査の初期段階から顧問弁護士等に相談することも考えられます。弁護士に相談することで、資料の保全、社内調査、事情聴取、懲戒処分、被害回復、刑事対応等について、法的な留意点を踏まえて検討しやすくなります。

STEP2:客観的な資料を収集・保全する

調査の方針と担当者を決めた後は、不正の有無を確認するため、第三者が事後的に検証できる客観的な資料を収集・保全します。本人や関係者の供述だけでなく、会計資料、帳票、承認履歴、システム上のログ、取引先とのやり取り、防犯カメラ映像等を確認することが重要です。

例えば、営業担当者による売掛金の着服が疑われる場合には、取引先が保管している領収書や支払記録と、社内システム上の売上・入金データとの整合性を確認します。レジ内の現金の持ち出しが疑われる場合には、レジの入出金記録、現金残高、シフト表、防犯カメラ映像などを確認し、関連する防犯カメラ映像は、上書きされる前に保全します。

従業員による商品の持ち出しや転売が疑われる場合には、対象製品の製造番号やシリアルナンバーと、在庫管理記録、入出庫履歴、転売サイト上の出品情報等を照合します。ウェブ上の出品情報については、URL、確認日時、出品者情報、商品画像等が分かる形で画面を保存することが考えられます。

パソコン内のデータが削除されている場合には、バックアップの有無を確認し、必要に応じてデジタル・フォレンジック調査の実施を検討します。

デジタル・フォレンジックとは、電子機器に残されたデータから、法的な証拠や不正行為の痕跡を収集・解析する調査手法です。もっとも、データを確認・取得できる範囲は、端末の所有関係、社内規程、利用目的、従業員への周知状況等によって異なります。調査担当者の判断だけで対象範囲を広げず、必要に応じてシステム管理部門や弁護士等と連携してください。

収集した資料については、取得元、取得日時、取得者、保存方法、原本との関係等を記録し、「誰が、いつ、何を、どのようにしたのか」を事後的に確認できる状態にしておくことが重要です。

STEP3:証拠隠滅や追加被害を防ぐための措置を検討する

資料の保全と並行して、本人への事情聴取に先立ち、証拠隠滅や追加被害のおそれがないかを検討します。不正な送金や物品の持ち出しが継続するおそれがある場合には、担当者単独では処理できない承認体制への変更、アクセス権限の見直し、現金や印章、通帳、キャッシュカード等の管理方法の変更などを検討します。

ただし、対象者のアクセス権限を停止したり、配置を変更したり、自宅待機を命じたりする場合には、就業規則上の根拠や業務上の必要性、対象者に与える不利益等を検討する必要があります。具体的な措置は、証拠隠滅や追加被害のおそれ、調査の進捗、対象者の職務内容等に応じて個別に判断してください。

やってはいけないNG対応:客観的な資料を確認しないまま追及する

避けるべき対応は、客観的な資料を十分に確認しないまま対象者を犯人と決めつけ、感情的に追及したり、執拗に自白を迫ったりすることです。本人が不正を認めた場合でも、その供述だけに依拠して処分や法的手続を進めることは適切ではありません。また、威圧的な追及や長時間の拘束などにより得られた供述は、その任意性や信用性が争われるおそれがあります。本人の供述内容についても、会計資料、承認履歴、映像、アクセスログ、取引先の記録等の客観的な資料による裏付けを確認することが重要です。

また、調査中の情報を必要以上に社内で共有すると、対象者の名誉やプライバシーを侵害したり、調査に協力した従業員との関係に影響したりする可能性があります。調査に関する情報は、対応に必要な関係者に限って共有することが望まれます。

客観的な資料により不正の疑いが強まった後の対応フロー

客観的な資料の確認により不正の疑いが強まった場合には、本人からの事情聴取を含む追加調査を行い、その結果を踏まえて、懲戒処分、被害回復、刑事対応等を検討します。この段階でも、会社が予断を持って本人を犯人と決めつけるのではなく、本人の説明を確認し、収集した資料との整合性を検討することが重要です。

本人への事情聴取と確認書の作成

事情聴取は、原則として複数名で行い、質問内容と本人の回答をできる限り正確に記録します。聴取担当者と記録担当者を分ける方法も考えられます。事情聴取では、最初から会社側の認識を示して回答を誘導するのではなく、まず、本人に経緯や事実関係を説明してもらうことが重要です。その後、必要に応じて客観的な資料を示しながら、本人の説明との整合性や、説明が変化した理由などを確認します。どの資料をどの段階で示すかは、事案の内容、本人の説明状況、証拠隠滅のおそれ、他の関係者への調査の必要性等を踏まえて検討します。

事情聴取の録音を行う場合には、その必要性や方法、録音データの利用目的、保管方法、閲覧できる者の範囲等を事前に検討する必要があります。録音の要否について判断が難しい場合には、あらかじめ弁護士等に相談することが望まれます。

本人が不正を認めた場合には、不正行為の日時、場所、方法、金額、金銭の使途、関係者の有無などについて、可能な限り具体的に確認します。そのうえで、本人の説明内容を記載した確認書を作成し、内容に誤りがないことを本人に確認してもらう方法が考えられます。確認書は、威圧や強制によらず、本人の自由な意思に基づいて作成される必要があります。また、本人が署名または押印したという事情だけで記載内容が当然に正しいと扱われるわけではないため、客観的な資料との整合性も確認してください。

損害賠償請求と被害額の回収

不正行為が認められた場合には、被害額を特定したうえで、本人に対する損害賠償請求を検討します。被害額の算定にあたっては、取引履歴、帳簿、領収書、入出金記録、在庫管理記録等を確認し、推測に基づく金額を本人に請求しないよう注意が必要です。

本人が被害額や返済義務を認め、返済方法について合意できる場合には、事実関係を確認する文書とは別に、返済額、支払期限、分割方法、振込先、期限の利益を失う条件等を定めた合意書を作成することを検討します。分割払いとなる場合や、金額が大きい場合には、強制執行認諾文言付き公正証書の作成や担保の設定など、回収を確保する方法を検討することもあります。

本人が財産を処分するおそれがあり、将来の強制執行が困難になる可能性がある場合には、裁判所に仮差押えを申し立てることが考えられます。仮差押えには、被保全権利や保全の必要性の疎明、担保の提供等が必要になるため、弁護士に相談しながら準備することが望まれます。仮差押えは、前述した当事者の合意による担保設定とは手続や要件が異なるため、事案に応じて手段を選択する必要があります。

なお、賃金や退職金から会社の損害額を一方的に差し引くことは、賃金全額払いの原則等との関係で問題となる可能性があります。本人との合意がある場合でも、その有効性や方法について慎重に検討してください。

身元保証契約がある場合には、身元保証人への請求を検討することがあります。しかし、身元保証人が当然に被害額の全額を負担するわけではありません。身元保証契約については、契約の有効期間、保証の対象範囲、極度額、会社から保証人への通知の有無、会社の監督状況等によって、保証人への請求の可否や範囲が異なります。契約書と具体的な経緯を確認したうえで、個別に判断する必要があります。

不法行為に基づく損害賠償請求権は、原則として、会社が損害および加害者を知った時から3年間、または不法行為の時から20年間行使しない場合に、時効によって消滅します。ただし、請求の法的構成、各行為の時期、時効の完成猶予・更新の有無などにより結論が異なる場合があります。被害が長期間にわたる場合には、時効との関係を早期に確認することが重要です。

また、横領が判明した場合には、損失や損害賠償請求権の計上時期など、税務上の検討が必要になることがあります。役員が関与する事案では、金員の取扱いや源泉徴収等が問題となる場合もあるため、具体的な事実関係を踏まえて税理士等に確認することが重要です。

懲戒処分の検討と注意点

業務上の横領は、職務規律や企業秩序を害する行為であり、懲戒解雇を含む重い懲戒処分の対象となり得ます。ただし、横領が疑われるというだけで、当然に懲戒解雇が有効となるわけではありません。

懲戒処分を行う際には、就業規則に懲戒事由と懲戒処分の種類が定められ、従業員に周知されているかを確認する必要があります。そのうえで、行為の内容、被害額、回数、期間、計画性、本人の職位・権限、会社への影響、被害弁償の有無、過去の懲戒処分との均衡などを総合的に検討し、処分の相当性を判断します。

また、就業規則に懲戒委員会等の手続が定められている場合には、その手続に従う必要があります。原則として、処分前に本人の説明を確認し、弁明の機会を設けることも重要です。これらの検討や手続が不十分な場合には、懲戒処分や懲戒解雇が無効と判断される可能性があります。

被害額が少額である場合や、行為の態様、本人の勤務状況、被害弁償等の事情によっては、懲戒解雇以外の懲戒処分、普通解雇、合意退職などを検討することもあります。ただし、処分や退職方法の選択は、個別の事案に応じて慎重に判断する必要があります。

刑事告訴のメリット・デメリットと判断基準

横領の疑いが強い場合には、被害額、行為の期間・回数、手口、証拠状況、被害弁償の有無、社内外への影響等を踏まえ、警察への相談や刑事告訴を検討します。

刑事告訴を行った場合、捜査機関の判断により、関係者への事情聴取、捜索・差押え、取引履歴の照会等の捜査が行われることがあります。ただし、告訴を行えば必ず捜査が開始される、特定の証拠が収集される、または起訴されるというものではありません。どのような捜査を行うかは、捜査機関が証拠状況や事案の内容等を踏まえて判断します。会社としては、把握した事実、被害額、行為の期間・回数、関係者、証拠資料等を整理したうえで、告訴の必要性やタイミングを検討することが重要です。

一方、刑事手続への対応には、資料の提出、関係者への事情聴取、捜査機関との連絡等の負担が生じます。また、事件が社外に知られた場合には、取引先、顧客、従業員等への説明が必要になることもあります。刑事告訴を行うかどうかは、被害額だけで一律に判断せず、不正行為の悪質性、証拠の状況、被害回復の見込み、社内外への影響等を総合的に考慮して決定する必要があります。

不正の再発を防ぐための管理体制の見直し

不正事件への対応後は、個人の責任追及だけで終わらせず、なぜ不正が発生し、長期間発見されなかったのかを検証する必要があります。再発防止のためには、不正を実行しにくく、仮に不整合が生じても早期に発見できる管理体制を構築することが重要です。

業務プロセスの透明化とダブルチェック体制の構築

不正を防止するためには、特定の担当者に権限や業務が集中しない体制を整えることが重要です。現金の取扱い、出金伝票の作成、帳簿への記帳、振込データの作成、振込の承認、通帳や印章の保管などについて、可能な限り担当者を分け、相互に確認できる仕組みを設けます。インターネットバンキングでは、振込データの作成担当者と最終承認者をシステム上で分離し、承認者が請求書、出金伝票、振込先、金額等を確認したうえで承認する体制が考えられます。

また、担当者を定期的に交代させる、一定期間の休暇を取得させる、担当者以外の者が定期的に帳簿や残高を確認するなど、業務が特定の従業員だけに属人化しない運用も有効です。

こうした仕組みにより、ひとりの判断だけで会社の資金や、物品を動かすことができるリスクをできる限り低減します。

就業規則の整備とコンプライアンス研修の実施

就業規則について、横領、窃盗、不正な経費精算、会社物品の無断持ち出し、会計資料の改ざん、会社システムの不正利用等が懲戒事由として適切に定められているかを確認します。また、懲戒処分を行う際の手続や、社内調査への協力に関するルール、会社端末・社内システムの利用ルール等についても、必要に応じて整備することが考えられます。

もっとも、就業規則に規定を設ければ、どのような処分でも可能になるわけではありません。具体的な懲戒処分は、行為の性質や態様その他の事情に照らし、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められる必要があります。

さらに、コンプライアンス研修を定期的に実施し、どのような行為が横領、経費不正、会社物品の不正利用等に当たり得るのかを周知することも有効です。

研修では、違反した場合の責任を強調するだけでなく、経費精算、現金管理、物品管理、承認手続、相談・通報窓口等について、従業員が守るべき具体的なルールを説明することが重要です。

内部通報制度(ヘルプライン)の設置と適切な運用

職場で生じる不自然な処理や不正の兆候を早期に把握するためには、従業員が安心して相談・通報できる仕組みを整えることが重要です。

内部通報窓口を整備する際には、通報を受け付ける部門や担当者、調査の方法、情報を共有する範囲、通報者を特定し得る情報の管理方法、通報を理由とする不利益な取扱いを防止するための措置等を定めます。通報者を特定し得る情報は、対応に必要な範囲を超えて共有しないことが重要です。匿名での通報を受け付ける仕組みを設けることも考えられます。

ただし、匿名通報では、追加の事実確認が難しくなる場合があります。また、通報内容や調査の過程から通報者が推測される可能性を完全に排除することはできません。そのため、匿名性を保証すると断定するのではなく、通報者を特定し得る情報を適切に管理する体制を整える必要があります。

社内の窓口だけでは相談しにくい場合に備えて、外部の専門業者や法律事務所を受付窓口とする方法もあります。ただし、外部窓口を設ける場合にも、社内で誰が調査・是正を担当するのか、どの範囲の情報を共有するのかを明確にしておく必要があります。制度を設けるだけでなく、窓口の利用方法や通報者保護の仕組みを従業員に周知し、通報を受けた後に適切な調査と是正措置を実施することが重要です。

まとめ:不正対応は初動が重要。迷ったら早めに専門家へ相談を

会社の金銭や物品を巡る不正は、発見が遅れるほど、被害の拡大や証拠の散逸につながるおそれがあります。他方で、客観的な根拠がないまま特定の従業員を追及すれば、適切な事実確認が難しくなり、新たな労務上のトラブルを招く可能性もあります。

不正の疑いを把握した場合には、ひとりで判断せず、社内の所定の責任者に報告したうえで、調査担当者と情報共有の範囲を定め、客観的な資料の保全と確認を進めることが重要です。その後、本人の説明と客観的な資料を照合し、不正の有無、被害額、関係者等を慎重に確認します。不正が認められた場合には、就業規則や関係法令に基づき、懲戒処分、被害回復、刑事対応等を個別に検討します。

また、個人への責任追及だけで終わらせず、不正を可能にした業務フローや管理体制を見直し、同様の事態を早期に発見・防止できる仕組みを整えることも必要です。

対応方法の判断が難しい場合には、必要に応じて弁護士、税理士、デジタル・フォレンジックの専門家等と連携し、事案に応じた方法で慎重に対応しましょう。

 

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弁護士法人シーライト

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