育児介護休業法について押さえておくべきポイント(令和3年改正対応)
1 育児介護休業法とは
育児介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は、「子の養育及び家族の介護を容易にするため所定労働時間等に関し事業主が講ずべき措置を定めるほか、子の養育又は家族の介護を行う労働者等に対する支援措置を講ずること等により、子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与すること」(同法1条)を目的とした法律です。労働者が仕事をやめることなく出産・子育てや介護をしやすくなるよう各種休業制度の設立や一定条件下での休業の申し出を拒否できないことなどを事業主に義務付けております。
少子化による仕事と育児の両立の困難さを改善するため、平成3年に育児休業等に関する法律の成立から始まりました。そして、高齢化社会を迎え、認知症や寝たきりの親を家族が介護していかなければならない状況への対応として介護休業の制度化が必要となり、平成7年に育児介護休業法へと改正されました。
令和4年1月現在、育児介護休業法の直近の改正は令和3年改正となりますが、令和3年改正法は令和4年4月1日から段階的に施行されます。
2 令和3年改正法施行以前の育児介護休業法のポイント
(1)育児休業制度
この制度のポイントの1つ目は、1歳に満たない子がいる労働者は子の養育のために休業を申し出ることができるというものです。
1歳未満の子がいる限り、労働者から休業の申し出がなされれば、事業主は原則としてこれを拒むことができません。ただし原則として、休業の申し出は1回に限られ、かつ連続した1つの期間のものでなければなりません。例えば、子が令和3年12月に生まれた労働者が育児休業として1月から6月まで休業すると申し出た場合、事業主はこれを拒めませんが、例外的な事情(配偶者の死亡等)がない限り、例えば再度7月から9月まで再度育児休業する、などの申し出が出てきたとしても事業主はこれを拒むことができます。
なお、法律上は育児休業を拒むことができないとしているだけであり、休業期間中の給料の支払いまでは義務付けておりませんので、会社が特別な制度を設けていない限りは無給での休業となりますが、当該労働者は育児休業給付金の支給を受けることができます。また、労使協定で一定の場合(当該労働者が勤続1年未満等)には休業の申し出を拒むことができることを定めておくこともできます。
この制度のもう1つのポイントは、育児休業の延長ができることです。その労働者自身または配偶者がその子の1歳到達日時点で育児休業をしている場合で、保育所での保育の申し込みをしているものの当面実施されないなどの事情がある場合、子が1歳6か月に達するまでの間の一定期間についてと、子が1歳6カ月から2歳に達するまでの間の一定期間について、育児休業の申し出をすることができ、事業主はこれを拒むことができません。
ただし、有期雇用労働者が育児休業および後述の介護休業を取る場合は、①引き続き雇用された期間が1年以上かつ②子が1歳6箇月になるまでの間に契約が満了することが明らかでないという2つの要件を満たすことが必要です。
(2)子の看護休暇その他労働制限
小学校就学前の子を養育する労働者が、子の疾病・負傷の世話のために休暇を申し出る場合、事業主は年5日を上限として休暇の申し出を拒むことができません。
また、所定外労働や時間外労働、深夜業などが制限されます。具体的には次のとおりです。
3歳未満の子を養育する労働者からの請求があった場合、事業主はその労働者に所定外労働をさせることができません。
小学校就学前の子を養育する労働者から請求があった場合、一定の適用対象外労働者からの請求でない限り、1カ月24時間、1年で150時間が残業の上限時間となり、深夜労働(午後10時から午前5時まで)をさせることができなくなります。
(3)介護休業制度
要介護状態にある対象家族(父母、配偶者や子など)を介護するため、労働者は、要介護者1人につき、要介護状態に至るごとに通算93日を限度として3回まで介護休業をすることができます。育児休業の場合と同じく、労使協定で一定の場合(当該労働者が勤続1年未満等)には休業の申し出を拒むことができることを定めておくことができます。また有期雇用労働者については適用対象外の場合もあり、日雇い労働者は適用対象外です。
この「要介護状態」にあたるか否かは、実務上、介護保険でいう「要介護2」以上の状態であるかどうかポイントとなりますが、法律上の要件はあくまで「負傷、傷病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」とされているため、これに満たなければ介護休業の取得を拒否できるというものではないという点には注意が必要です。
(4)介護休暇その他労働制限
要介護状態の対象家族を介護するため、労働者は、年5日を上限として介護休暇を申し出ることができ、事業主はこれを拒むことができません。
また、事業主はその労働者の請求があれば、一定の適用対象外労働者からの請求でない限り、所定外労働をさせることができず、1カ月24時間、1年で150時間が残業の上限時間となり、深夜労働(午後10時から午前5時まで)をさせることができなくなります。
(5)上記制度利用による不利益取扱いの禁止
上記制度を利用したこと等を契機として不利益な取り扱い(解雇、雇止め、契約更新回数の引き下げ、退職や正社員を非正規社員とするような契約内容変更の強要、降格、減給、賞与等における不利益な算定、不利益な配置変更、不利益な自宅待機命令、昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行う、仕事をさせない、もっぱら雑務をさせるなど 就業環境を害する行為をするなど)をすることは禁止されております。通達では、原則として、妊娠・出産・育休等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」不利益取扱いがなされたものと判断するとされております。
3 令和3年改正育児介護休業法のポイント
(1)男性の産休制度の創設(令和4年10月1日施行)
最大のポイントは男性に対しても女性と同じような産後休暇を創設した点です。
正式名称は「出生時育児休業制度」であり、子の出生後8週間以内の期間において4週間まで休業が取得可能となります。この制度による休業は前述の育児休業とは別に取得することができます。また分割して2回まで取得可能です。
さらに出生時育児休業期間中であっても、労使協定を締結しておけば、労働者と合意した範囲で休業中に就業してもらうことも可能です。
(2)育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け(令和4年4月1日施行)
育児休業の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければならなくなります。
・育児休業等に関する研修の実施(育児休業対象者に限りません)
・育児休業等に関する相談体制の整備等(相談窓口設置)
・自社の労働者の育児休業等取得事例の収集・提供
・自社の労働者へ育児休業等制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
また、事業主は、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対し、児休業制度等に関する以下の事項の周知と休業の取得以降の確認を個別に行うことが義務となります。
・育児休業等に関する制度の周知
・育児休業等の申出先
・育児休業給付に関する事項
・労働者が育児休業等期間について負担すべき社会保険料の取扱い
周知・意向確認の方法としては、面談、書面、ファクシミリ、電子メール等とされております。
(4)有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(令和4年4月1日施行)
前述した有期雇用労働者が育児・介護休業を取る場合の2つの要件のうち、「①引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が撤廃されます。
(5)育児休業の分割取得(令和4年10月1日施行)
前述のとおり、育児休業は1回に限りの取得となっておりましたが、改正法施行後は分割して2回まで取得することが可能となります。
(6)育児休業の取得の状況の公表の義務付け(令和5年4月1日施行)
従業員数1000人超の企業は、育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務付けられるようになります。
以上、育児・介護休業制度についてポイントに絞って簡潔に解説いたしました。
ただ、実際に就業規則を改訂したり労使協定を締結したりといった個別の場面では解説を読むだけでは不十分と言わざるを得ません。従業員とのトラブルが発生した場合に備えての就業規則の改定や実際の運用の変更については、実際の労働紛争対応や裁判例等もふまえた対応が必要です。
当事務所では、使用者側の労務問題に力を入れており、育児休業や介護休業に限らず、労働法分野全般についてサポートしております。
まずはご相談ください。
弁護士 阿部 貴之
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