パートの有給休暇・有給付与義務について

1 ケース

Y社は、正社員30名、パート社員10名の中規模工具メーカーである。
Y社には勤続3年になるパート勤めのXがいた。Xは、週2回1日5時間のパート勤務だった。Xは、有給休暇を取得したいと申告してきたが、Y社は以下のことを理由にの有給を認めなかった。
① ほかのパート社員9名にXの代わりに出てくれないかと相談することもせずに、そんなことされては仕事が回らないから困る。
② そもそも、パートには労基法上有給休暇を与えられていない。

2 有給休暇

本来、働くべき労働日に仕事を休めば当然賃金ももらうことができません。しかし、有給休暇を利用すれば労働日に仕事を休んでも賃金を受け取ることができます。

有給休暇は、6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤することで発生します。
労働者が時季を指定した場合には「事業の正常な運営を妨げる」と認められない限り、労働者は指定した日に有給休暇を取得することができます。ここにいう「事業の正常な運営を妨げる」は、代替要員を確保することが困難ということが求められます。そして、使用者が代替要員確保の努力をしない場合には、代替要員を確保することが困難とは認められないと法律上解釈されています。

そのため、Y社のように、他のパート社員9名にXの代わりに出てくれないかと相談することもせずに、Xの有給を認めないということはできません。他のパート社員9名にその日の出勤をお願いする必要があります。

さらには、そもそもXが担当する業務は、Xが1日いなくても問題がないのではないか、つまり業務の運営にとって不可欠な者とはいえないため、Xの有給の取得が「事業の正常な運営を妨げる」とはいえないということになることもありえます。

3 パートの有給休暇

有給休暇は、6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤するという要件を満たせば発生することになります。したがって、パート社員であっても、派遣社員であっても有給休暇が発生するので、今回のケースの場合、Xに有給休暇を認めなければいけません。

ただし、有給休暇の日数は、週の所定労働時間、週の所定労働日数、労働者の勤続年数に応じて異なっています。そのため、フルタイム勤務かそうでないかで違いが出てきます。

所定労働日 1年6ヶ月 2年6ヶ月 3年6ヶ月
週2 73~120日 4日 4日 5日
週1 48日~72日 2日 2日 2日

上記表のとおり、所定労働日が週1日の場合で、勤続年数が1年6ヶ月のときには有給休暇が年に2日認められることになります。今回のケースのXの場合、週2の勤務で、2年の勤務ということからすると、有給休暇は年に4日となります。

4 有給休暇の付与義務

有給休暇は、本来的には労働者が指定した時季に取得することができます。しかし、実際は同僚への気兼ねや有給休暇を取得することへのためらい等があるため、有給休暇の取得促進が課題となりました。そこで、2019年4月(中小企業は2020年4月)から、労働者に有給休暇を取得させることが使用者の義務となり、年休が10日以上発生した労働者については、その日数のうち5日については時季を定めて年休を与えなければならないことになりました。

ポイントは次の4点で、有給休暇の付与義務に気をつけて対応する必要があります。

(1)対象となる労働者

年次有給休暇が10日以上付与される労働者で、管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。
今回のケースのXは、有給休暇が4日しかないので、年休休暇の付与義務の対象外ということになります。

(2)取得時季

本来、発生した有給休暇を具体的にいつとるかは、労働者が時季を指定することになります。
しかし、有給休暇の付与義務は、使用者が対象となる労働者に対して「いつ有給休暇を取得したいか?」という意見を聴取したうえで、使用者が取得時季を指定することになります。

(3)時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法

時季指定の対象となる労働者の範囲、及び時季指定の方法について、就業規則に記載しなければなりません。

(4)年次有給休暇管理簿の作成

使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存することを義務付けられています。

5 まとめ

有給休暇の義務化に伴って、有給休暇に関して疑問点が増加していくと予測されるところです。
たとえば「10日の年休権を有する労働者はいるものの、3日分が労使協定によってお盆休み期間に計画年休として使用されることになっており、しかも、すでに自ら3日分有休を取得している人に対しても、使用者側が有給の時季を指定しなければならないのか?」といった疑問が生じるのではないかと思われるところです。
そうした疑問点について、弁護士がいれば法的なアドバイスが得られるので安心です。
有給休暇でお困りのことがあれば、当事務所にご相談ください。

 

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弁護士法人シーライト

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