2000万以上の横領被害を1か月半でスピード解決した事案

1.相談内容

顧問先である⻭科医院から以下のような相談を受けました。
・税理⼠からあるはずの現預⾦が2000万円以上のレベルで不⾜していることが指摘された。
・本件⻭科医院では、受付の者がその⽇の現⾦売上を集計し、売上封筒に⼊れ、何⽇か経って現⾦が貯まると本件⻭科医院の理事が回収するという管理をしていた。
・従業員が現⾦を取り扱える機会は、上記の売上封筒に関してのみなので、受付・会計業務を担当している従業員何⼈かにつき調査してみると、ある従業員Xの担当⽇だけ売上封筒に記載の⾦額より少ない現⾦しか⼊っていないことが判明した。
・そこで、Xに横領の事実を認めさせると共に、可能な限り被害⾦を回復したい。

【主な争点】

(1) Xが売上⾦を横領したか否か(Xに横領を認めさせることができるか)
(2) Xが売上⾦を横領したとして、どのくらいの被害⾦額か
(3) Xが横領した被害⾦額をどのように返還させるか

2.弁護⼠の対応・解決内容

結論として、
(1) については、Xに横領をした事実を認めさせることができ、合意退職を取り付けることができました。
(2) については、完全な特定にまでは⾄りませんでしたが、2000万円以上の被害額があることを認めさせることができました。
(3) については、
① X に事情聴取をした当⽇に約100万円、翌⽇に約700万円の現⾦での返還
② X ⽗⺟から現⾦200万円の被害弁済
③ 以下の内容の公正証書を締結
・被害額残額約1400万円につき、⽉20万円ずつの分割払いの約束
・X ⽗⺟及びX 交際相⼿が連帯保証⼈となる
・X ⽗⺟の⾃宅不動産に抵当権設定
などを実現しました。

(1)X が売上⾦を横領したか否か(X に横領を認めさせることができるか)について

まず、Xに退職してもらうにせよ、被害⾦を弁償してもらうにせよ、「Xが横領をした」という事実を証明(またはXに認めさせる)しなければなりません。
そのためには、客観的な「動かぬ」証拠集めがとにかく重要です。「あの⼈がやっていると思う」のような他の従業員による証⾔などは危ういものがあります。具体的な証拠集めには、個別の案件ごとの検討が必要ですが、「現⾦をレジなどから継続的に取っている」という事案であれば、防犯カメラに確実に写すことが重要です。

横領(刑法252 条・253 条)は、現⾦などの財物をポケットやカバンなどの⾃⼰の⽀配領域内に移した瞬間に成⽴しますから、この場⾯が写るよう防犯カメラを設置することが肝要です。本件⻭科医院には、まず、上記の点をアドバイスし、防犯カメラを秘密裏に設置することにしました。
そうしたところ、数⽇後、防犯カメラにバッチリ、Xがレジから現⾦を⾃⼰のポケットなどに⼊れている場⾯を撮ることができました。この防犯カメラ映像は、下記(2)でも強⼒な武器になりました。

(2)X が売上⾦を横領したとして、どのくらいの被害⾦額かについて

上記(1)の防犯カメラ映像を強⼒な武器として携えつつ、Xに事情聴取をすることを計画しました。具体的には、Xの受付・会計担当⽇の業務終了直後を⾒計らい、本件⻭科医院の理事⻑、理事及び弊所弁護⼠の阿部・⼩林で、X に業務命令として事情聴取の残業を命じました。
X⽴会いの下、その⽇の売上封筒を確認してみましたが、やはり記載の⾦額よりも封筒封⼊の現⾦の額が少ないため「なぜ売上⾦が少ないのか?」「何か知らないか?」と質問してみました。

当初、Xは⽩を切り「なぜ売上⾦が減っているのか知らない」「他の者が横領したのではないか」という⾔い分でした。しかし、上記(1)の防犯カメラ映像を⾒せつけたところ、観念し、横領の事実を⾃⽩しました。

また、5年以上前から毎回数万円レベルで現⾦を抜き取っていたこと、⾃宅に横領した現⾦約100万円があること、本件⻭科医院からの給与を⼿付かずのまま貯めておく⼝座に約700万円あることなども、⾃⽩させました。
これにより、2000万円以上の使途不明の現預⾦がXの横領によるものであることが判明しました。

(3)X が横領した被害⾦額をどのように返還させるかについて

事情聴取当⽇・翌⽇の迅速な被害⾦回復

上記⾃⽩を受け、早急な被害⾦保全が必要と判断し、
・Xの同意の下、Xの⾃宅に赴き、現⾦約100万円の当⽇返還を受けました。それだけでなく、約700万円の預⾦⼝座を引き出されないよう、その通帳及び銀⾏印を預からせてもらったうえ、翌⽇の返還を約束させました。
・翌⽇、X、本件⻭科医院理事、弊所弁護⼠の阿部・⼩林で集合し、Xと共に銀⾏に同⾏し、上記約700 万円預⾦を引き出してもらい、返還を受けました。

公正証書の作成・分割⾦⽀払いの開始

約800万円の被害⾦返還は受けられましたが、まだ1000万円以上の被害⾦の回復がされておらず、X はそれ以上に⽬ぼしい資産はありませんでした。そこで、Xの⽗⺟及びXと同居していた交際相⼿と話し合いを重ね、以下の内容で、公正証書を作成する⽅向で合意ができました。

① 公正証書締結時に、X ⽗⺟から現⾦200万円で被害弁済する。
② 被害額残額約1400万円につき、⽉20万円ずつの分割払いの約束をする。
③ X ⽗⺟及びX 交際相⼿が連帯保証⼈となる。
④ X ⽗⺟の⾃宅不動産に抵当権設定する。

実際に公正証書も作成することができ、X ⽗⺟は抵当権設定⼿続きも⾏ってくれており、現時点で分割払いも継続的に⾏ってくれています。

3.弁護⼠の所感・コメント

本件は、信頼していた従業員に⻑年に渡って裏切り続けられていたというショッキングな事件でした。しかし、会社としては、このような従業員を放置しておくわけにはいかず退職してもらうしかないでしょうし、何より被害⾦の回復を早急に⾏いたいというご希望が強いでしょう。

しかし、そのためには、加害者である従業員に単純な怒りをぶつけても上⼿くいくことは少なく、むしろ話がこじれることが多いでしょう。その従業員が、被害額について正直に話してくれるとは限りません(むしろ、なるべく被害額を⼩さく⾒せるでしょう)し、そもそも横領した事実さえ認めないかもしれません。

本件でXは、最初は横領を否認していました。もし、防犯カメラ映像を持たずに臨んでいたら、どうでしょうか?Xは⽩を切り通して、約800万円を持って⾏⽅をくらましていたかもしれません。そのような事態になってしまうと、被害⾦の回復など現実的には不可能です。従業員による横領・窃盗被害では、とにかく客観的な証拠集めから冷静に⾏っていくことが必要なのです。
また、加害者が横領や窃盗の事実を認めたとしても、その後どのような法的⼿続きを⾏うかは事案の特性を踏まえて、慎重に⾒極めることが必要になります。もちろん「警察に突き出す、相談する」「刑事告訴をする」という選択肢が有効な場合もありますが、それがベストな選択肢とは限りません。

横領や窃盗の被害回復は容易ではありませんが、本件では、対応開始から1か⽉半という短期に、約1000万円の被害回復できただけでなく、残額についても複数の連帯保証⼈及び抵当権付きで分割払いの公正証書を締結できるなど、現実的に⾏える被害回復⼿段をすべて実現できた事案であったと思います。それには、依頼者様が「横領されているかもしれない」という段階で、早めに弊所にご相談いただき、法的な観点から、冷静かつ有効な対応を先⼿先⼿で⾏えたことが奏功したと⾃負しております。

この記事をご覧になっている⽅も、「従業員が横領や窃盗をしているかもしれない」と疑った段階で、早めに弊所までご相談いただくことをおすすめいたします。

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弁護士 小林 玲生起

弁護士法人シーライト 副代表弁護士の小林玲生起と申します。 元従業員から未払賃金の支払い請求があった事件で、訴えられた企業側の弁護をした経験があります。元従業員からの未払残業代や未払賃金の請求に限らず、お悩みのことがございましたら、お気軽にご相談下さい。

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