セクハラに関するご相談
1 いただいたご相談内容
当社に勤務する女性従業員から、管理職宛て、男性従業員からセクハラを受けたとのことで相談がありました。セクハラを受けたという女性従業員はセクハラをしたという男性従業員に対し、世間話の中で、住んでいる地域なども教えてしまったとのことで、何か処分がされた場合には報復も怖いので退職しようかどうか悩んでいる、とのことでした。
セクハラを受けたという女性従業員は正社員として当社の重要な戦力を担っているため退職されてしまうと当社にとって痛手です。
女性従業員と男性従業員の接点はこの男性従業員の業務である各種送迎などの運転業務です。男性従業員は非常勤の短時間勤務アルバイト従業員で基本的には送迎車両の運行を任せようと考え雇用しました。そのため事務作業に向いている人材ではなく、配転をするとしても事務業務などへの配転が難しいところです。やむをえませんので今後は敷地内の草むしりを業務として割り当てようか検討中です。
対応方針についてアドバイスをお願いします。
2 当事務所からのアドバイス
(1)調査や懲戒処分の進め方
セクハラをしたという従業員(以下、「加害従業員」といいます。)に対して何らかの処分を行うという場合は一定の調査・証拠の収集が必要です。
ただ、闇雲に調査を進めることはかえってセクハラを受けたという従業員(以下、「被害従業員」といいます。)へのダメージが深くなるというケースもあります。そのため、調査を進めるにあたっては被害従業員の意向を尊重して同意を得ながら進める必要があります。
しかし、最も重要なのは、まずは被害従業員が問題なく働き続けるためにはどうしたらよいか、つまりセクハラによって乱された職場環境をできる限り修復して被害従業員が働きやすい職場環境にするにはどうすべきかを考え実行していくことです。懲戒処分を検討するにあたっては法律論的な観点からもその是非を検討する必要があるものの、何をどうすることが会社及び被害従業員にとって適切な解決方法になるのかということも並行して検討し、加害従業員に対して懲戒処分を行うべきなのか、行うとしてもどの程度の懲戒処分とすべきなのか、ということを慎重に検討する必要があります。本件のように被害従業員が加害従業員の懲戒処分にやや消極的な場合、加害従業員に対する調査を進めたり懲戒処分を行ったりすることがかえって職場秩序の回復を困難にする可能性もあります。被害従業員への配慮により調査が不十分であれば証拠も不十分で懲戒処分を行うこと自体も困難となります。
そのような場合、加害従業員に対して懲戒処分は行わず、被害従業員に対してはその意向を尊重しつつ、被害従業員及び加害従業員両方の配転を行うという解決方法もありえます。
ただし、ご質問のように配転先を草むしり業務へとすることには慎重な検討が必要です。雇用契約書上で定められた業務内容が車両の運転やそれに付随する業務とされている場合は配転が違法になる可能性もあります。そのため、現実的な落としどころとしては女性従業員との接点がなくなるよう配慮しての別の車両の運転業務を配転先とすることではなかろうかと思われます。
(2)ハラスメント防止措置の重要性
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇⽤の安定及び職業生活の充実等に関する法律や男⼥雇⽤機会均等法及び育児・介護休業法の改正により、使用者にはハラスメント防止対策が義務付けられております(中小企業については2022年4月1日から、その他企業は2020年6月1日から)。
法律上の義務でもありますが、職場秩序を維持して健全な企業活動を続けて行く上ではもちろんのこと、従業員が安心して働ける職場環境を整えるためにも、ハラスメント防止措置をしっかりと講じましょう。既に防止措置を講じていたという場合も再発防止措置が法律上の義務とされておりますので、改めてどういう行為がハラスメントに該当し、ハラスメント行為を行うことは許されず厳正な処分の対象となること、などの意識を啓発するための従業員教育を行う必要があります。
事業主が雇用管理上講ずべき措置としては以下のような措置が厚生労働大臣の指針に定められております。
①ハラスメントの内容を定めそれらハラスメントを⾏ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
②ハラスメントの⾏為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
③相談窓⼝をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
④相談窓⼝担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
⑤ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、これらのハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。
⑥事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
⑦事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
⑧事実確認ができた場合には、⾏為者に対する措置を適正に行うこと。
⑨再発防止に向けた措置を講ずること。
⑩相談者・⾏為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
⑪事業主に相談したこと、事実関係の確認に協⼒したこと、都道府県労働局の援助制度の利⽤等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
特に上記③から⑧の対応は自社のみでの対応は困難ですので、外部の専門家事業者の研修を受講させたり、労働問題に詳しい弁護士に相談したり、ということが必要です。
弁護士 阿部 貴之
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