従業員の給与を下げる場合の注意点についての相談事例
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1 いただいたご相談内容
当社では業務量の増大に伴い、従業員の増員を計画しています。
しかしながら既存従業員の給与支払額が重荷になっていて、増員をするにあたっての予算確保が困難な状況です。
可能であれば既存従業員の給与を下げるなどして予算を確保したいと考えているのですが、どのように対応すれば問題ないでしょうか。
2 弁護士からの回答
(1)個別合意をとる方法
従業員の給与を下げるということは、その従業員にとって労働条件の不利益な変更にあたります。
労働契約法は、労働契約の不利益変更について以下のとおり定めています。
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
つまり、労働契約の不利益な変更であっても、労使双方の合意によって変更することができるのが原則となっています。
しかし、最高裁は以下のとおり判示して、単に合意があるだけでは足りないと労使間の合意原則を厳格化しました(山梨県民信用組合事件-最二小判H28.2.19)。
「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である」
この最高裁判例を踏まえると、少なくとも、減額される賃金の額をどの程度にするか、賃金減額の必要性はどの程度あるのか、労働者に対してどの程度の情報提供や説明を行うか、どのように同意を取得するかというところを十分に吟味し、労使双方協議を尽くさなければなりません。その上で実際に減給を行うか否か、リスクを踏まえた難しい経営判断になると思われます。
なお、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とされてしまうので(労働契約法12条)、賃金規定等で定める基準に達しない給与設定に変更するのであれば就業規則の変更を行い、これについて同意を得るという手続になるので注意が必要です。
(2)就業規則の変更の注意点
理論的には同意がなくても、一定の場合は就業規則の変更により労働条件の不利益な変更が可能です。
ただ、就業規則を変更する場合は「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なもの」でなければなりません(労働契約法10条)。
給与を下げるということは、減給する額にもよりますが、労働者の生活に直結する重要事項への不利益変更となるため、経営の著しい悪化などの厳しい状況でもなければ労働条件の変更の必要性が認められるのは難しいと思われます。
3 弁護士の所感・コメント
人事的措置として、当該従業員の業績不振のために減給する場合でも、大幅な減給は簡単にはできませんし、従業員にとっては生活に直結する問題なので、突如退職されたり労働紛争に発展しかねなかったりするので慎重な対応が必要です。
「コスト削減の手は尽くしたが、これ以上削減できるコストがないので次は給与の減給」というくらいの状況でなければ、あまりお勧めできる手法ではありません。
現実的な手法としては、無駄な残業や、業務が1人に集中して残業代がかなり高額になっているケースなどであれば、残業を減らす工夫をすることで、支給すべき給与を減らして結果としてコストの削減を行うことが考えられます。
弁護士法人シーライト
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