従業員のSNSトラブルに対して企業の取るべき対応策

1 情報があっという間に拡散するので損害があっという間に拡大

Twitter(ツイッター)やface book(フェイスブック)やインスタグラムなど、SNSは誰もが気軽に利用できるソーシャルメディアです。

ご存じのとおり限られた人しか閲覧できる設定にしていない限りSNS上に投稿された情報は瞬時に世界中の誰もが閲覧できる状況になります。そのため、目を引く投稿はあっという間に情報が多数の人に共有され、拡散され広まっていってしまいます。

従業員がSNSへ個人的に投稿した情報が拡散された結果、その内容によっては会社に大きな損害が発生するというケースも珍しくありません。

2 従業員のSNS利用による企業トラブルの具体例

情報漏洩のような形でトラブルが発生することがあります。例えば、従業員が何気なく撮影してSNSへ投稿した机の上のランチの画像に重要な企業秘密が記載された書類の一部が映りこんでいたため機密情報が漏洩したというような例です。
また、勤務先店舗に有名人がお忍びで来店したので記念撮影し、普段は自分のごく限られた友人しか見ていないからとTwitterに投稿したところ情報が拡散してしまったというような例です。
これらの場合、会社にさまざまな損害が発生することは間違いありませんが、現実的にはその被害回復を図ることが非常に困難です。特に、大事な顧客やその関係者から見放されてしまうなど、レピュテーションリスクは甚大です。

平成25年頃にはバイトテロという造語がメディアを賑わせました。バイトテロとは、アルバイト従業員が勤務先コンビニエンスストアの商品を陳列する冷凍庫の中に身体ごと入っているところをスマートフォンで撮影してSNSに投稿するなど、勤務先の設備や商品にふざけた行為をしている画像・動画を撮影してSNSに投稿することを揶揄したものです。
商品や備品を廃棄したり洗浄したりする必要が出てくるなど、財産的な損害が発生するばかりでなく、そのような店で買い物をしたくないと思われ、企業の評判を失墜させるものです。

そのほか、従業員が勤務先の会社や役員、従業員などを誹謗中傷する投稿をSNSに行うというケースや、社外の第三者や企業を誹謗中傷する内容の投稿をSNSに行うというケースなどがあります。
例えば前者については、新聞社の従業員が所属を明らかにした上で自身の個人的なホームページで、取材情報を使いながら社内批判や「適当に名前を考え」記事にしたなどの不適切な記述をした記事を掲載したという事例があります。

3 まずは情報・証拠の収集が必要

トラブルが発生してから時間がたてばたつほど被害が拡大していきます。そのため、企業として行うべきは迅速に行動することです。
まずはどのような行動をとるべきか整理しましょう。

一般的には、①情報の削除②対外的対応③当該従業員に対する対応④再発防止策を講じることが挙げられます。

これらを適切に行うには情報・証拠の収集をしていく必要があります。

そのためにまずは調査にあたる人員を決めましょう。一般的には人事、法務、総務の人員がこれを担うことになると思います。

担当を決めた次に行うべきは、問題の情報が発信されているSNSサイトの調査です。

SNSサイトからは、当該情報やその周辺情報の画像を印刷したりデータ化して証拠化を行うとともに、情報を発信したであろう従業員の特定と拡散状況の調査も行いましょう。

次に、投稿をした従業員が特定できた、または概ね目星がついた場合は、当該従業員のPCや机、ロッカーなどの調査が考えられます。

このような場合であれば、調査に必要かつ合理的な範囲内に限り、会社からの貸与品については無断での調査も適法となりえますが、プライバシーの侵害となる可能性も否定はできません。
線引きの難しいところですので、就業規則に調査ルールを定めていない場合は可能な限り同意をとったうえで調査しましょう。

さらに、関係者への事情聴取、本人への事情聴取が必要となります。聴取した内容の正確性を保つため、5W1Hを意識した形で聴取内容をまとめましょう。

4 情報の削除をするには?

まずは当該従業員へ情報を削除するよう求めることとなります。

投稿者が特定できない、投稿者である従業員が削除を拒否するという場合もありえます。このような場合は、プロバイダ責任制限法に基づき当該Webサイトの管理者に対して情報の削除を請求しなければなりません。

しかし、この請求が認められるためには、
A)書き込みの削除が技術的に可能であり
B)当該投稿によって権利侵害がなされていることを管理者が知っていた、または知ることができたと認められる相当な理由
が必要です。

削除請求になかなか応じてくれない管理者も珍しくなく、その場合は裁判手続が必要となります。そのため、削除を成功させるためには相当な知識・経験・労力が必要となるということを認識しておいた方がよいでしょう。

5 対外的な対応はするべきか?

対外的な対応では自社ホームページなどでのプレスリリースが一般的ですが、どのような場合でも必ずプレスリリースなどの対外的対応を行うべきなのかといえばそうではありません。

投稿された情報の内容が重大で世間的影響が大きいか否か、投稿された情報が早期に削除されてあまり拡散されなかったのかそれともかなり広範に拡散してしまっているのか、外部からの問い合わせが多数寄せられているかほとんどないか、など諸々の事情を考慮して決めるのが良いと思われます。

ただ公表すべき場合に、そのタイミングが遅れると会社の信用が大きく失われますので、注意が必要です。

6 問題を起こした従業員に対しては何ができるか?

投稿の内容や方法によっては労働者の立場としては懲戒処分の対象となり、民事上の責任としては損害賠償責任があります。内容によっては信用棄損・名誉棄損による刑事告訴による処罰もありえます。

ただ、従業員によって行われた不適切な投稿がすべて懲戒処分や損害賠償の対象となるかというとそうではありません。会社の秩序・規律維持に関係しなければ会社の懲戒処分権は及びませんし、会社に実害が生じ中れば損害賠償請求権も発生しません。また、就業規則の懲戒事由がきちんと整理されていなければ懲戒処分の対象とできないこともあります。

仮に懲戒処分の対象とできたとしても、懲戒解雇などの重い処分は後に無効となる可能性もありますし、損害賠償も全額の請求が認められるケースはまれであるばかりか従業員に賠償金を支払う資力がない場合も珍しくありません。

そのため、事案に応じた適切な処分を検討する必要があります。

7 再発防止策・・・最も重要なのは社員教育!

従業員のSNSトラブルを規制するうえで一番に思いつくのが社内ルール、つまり就業規則です。

まず、今後問題が起きた時にスムーズな調査をできるようにするため、会社の電子メールアドレスの私的利用禁止規定や私的利用の取り扱い、調査権限が会社にあることを就業規則に定めることをお勧めします。

次に、従業員を取り締まるための規定となりますが、企業が従業員に対して解雇や減給などの懲戒処分を行うには就業規則に定められた禁止行為に該当することが必要です。

就業規則の改定にはさまざまな制約や手続が存在します。インターネット環境が日々目まぐるしく進化してきていることを考えると、都度就業規則を細かく作り変えることは現実的ではありません。
また、多大な労力と時間をかけて就業規則を細かく作り直していっても従業員側がその内容を十分に理解していなければ何の意味もありません。

従業員のSNSトラブルの多くは、悪意を持って行われるというよりもネットリテラシーが不十分だったため知らずのうちにトラブルを起こしている、うっかり起こしている、まさかここまでの問題に発展するとは思わなかったという状況で起きています。

そのため、SNSトラブルを未然に防ぐには、社内外におけるSNSマナーを周知し、プライベートでの行いであってもマナー違反行為が自身にとって重大な不利益につながる可能性があることを周知するため、従業員向けの研修を行うことが最も効果的であろうと思われます。

特に、たくさんの実例を紹介したうえで、不注意でそのような投稿をした従業員がどのような目に遭うのか(考えられる懲戒処分の内容や損害賠償金の金額等)を伝えることで、従業員一人一人が自分事としてしっかり気を配り、マナーを守るようになっていくことが期待できます。

従業員向け研修の内容に説得力を持たせる目的で外部講師の起用をお考えの企業様におかれましては、お気軽にご相談ください。

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弁護士法人シーライト

弊所では紛争化した労働問題の解決以外にも、紛争化しそうな労務問題への対応(問題社員への懲戒処分や退職勧奨、労働組合からの団体交渉申し入れ、ハラスメント問題への対応)、紛争を未然に防ぐための労務管理への指導・助言(就業規則や各種内規(給与規定、在宅規定、SNS利用規定等)の改定等)などへの対応も積極的に行っておりますのでお気軽にご相談ください。

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