残業代請求~名ばかり管理職とは?
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1 退職した元管理職から突然請求された残業代
当社は複数店舗の飲食店経営をしており、各店舗には管理職として店長を置いています。当社の就業規則では管理監督者には残業代を支給しないと定めていますので、就業規則に則り管理職である店長には残業代を支給していませんでした。
店長にはアルバイト従業員の採用面接を担当させていましたが、採用の決定は役員達で行っていました。店長には管理職手当を支給していますが、店長昇格前と比較して給料全体は若干下がったかもしれません。ただ、従業員が昇格前よりもあまり損はしないように調整しております。
先日退職した元店長として業務していた従業員から、弁護士を通じて2年分の残業代請求を受けました。
この残業代は支払わなければならないのでしょうか?
2 管理監督者と管理職の違い
「管理職だから残業代が出ない」という話を耳にすることがあります。
しかし、この話には誤解が含まれています。
確かに、労働基準法41条にいう「管理監督者」に該当する従業員については、労働時間に関する規定や休日に関する規定、休憩に関する規定などが適用されない結果、時間外労働の割増賃金(残業代)が発生しません。
しかし、企業のすべての管理職がこの「管理監督者」にあたるわけではありません。
そもそも「管理監督者」に割増賃金(残業代)が発生しない理由は、「管理監督者」が労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働基準法上の労働時間等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様もこれらの規制になじまないような立場にあるとされるからです。
そのため、多くの裁判例において「管理監督者」とは
①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)
②自己の労働時間について裁量を有していること(労働時間の裁量)
③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)
が必要であると判示されています。
肩書が管理職であるとか、職位が課長や部長である、というだけではこの3つの要素が認められない場合が大半です。
そのため、管理職=「管理監督者」という誤解も相まって、「管理監督者」という制度は企業にとって誤解を生む使いにくい制度であると言われています。
3 どのような従業員であれば管理監督者といえるのか
(1)経営者との一体性の有無はどのように判断されているのか
経営者との一体性について、裁判例は以下に着目して考慮要素としています。
A)管理権限・監督権限の有無、内容
従業員の採用・解雇・人事考課などを行う人事権・管理検眼の有無・内容、従業員らの業務遂行に関する指示・命令を行う監督権限の有無・内容など
B)実際の職務の内容
労働時間の規制を受ける他の従業員らと同様の現場業務があるか否か、現場業務に従事する業務量や時間など
C)経営への参画状況
社内における地位、労務管理事項を含む経営上重要な事項への関与・影響力の有無・程度、重要事項を決定する権限の有無・内容、重要事項を決定する会議体への関与・影響力の有無・程度など
例えば、経営会議に出席していても実際には企業のごく限られた役員達の一存で経営方針が決められており、経営方針の決定にほとんど影響力がないという管理職であれば「管理監督者」性が否定される方向へ傾きます。
(2)労働時間の裁量の有無についてはどのように判断されているのか
労働時間の裁量の有無について、裁判例は
D)労働時間に関する裁量・拘束の有無・程度
E)部下の勤務態様との違いの有無・程度
に着目して考慮要素としています。
D)労働時間に関する裁量・拘束の有無・程度についていうと、出退勤時刻を自由に調整することができているか、出退勤時刻に関する高速の有無、厳格さの程度、タイムカードにより労働時間の管理を受けているか、出退勤・勤務時間に応じた賃金控除や人事考課でのマイナス評価その他の不利益取扱いがなされているか、日々の業務内容や方針についての報告・承認手続の有無などが着目されています。
ただ、タイムカードの打刻が義務付けられていたとしてもその目的がもっぱらその従業員の健康管理を目的にしているという場合は「管理監督者」性が否定されることにはならないものと考えられます。
(3)管理監督者の賃金等の待遇はどうあるべきか
賃金等の待遇について、裁判例は
F)役職に見合った賃金が支給されているか
G)給与面等について管理職昇格前の待遇よりも優遇されているか
H)他の一般従業員と比較して給与等の待遇面で逆転現象が生じていないか
などに着目しています。
例えば、管理職に昇格したことで、役職手当がついた代わりに残業代が付かなくなったという状況において、昇格前の勤務条件をもとに残業代を計算してみたところ、役職手当よりも残業代の方が高くなったとか、ほとんど変わらなかったという場合は「管理監督者」性が否定される方向へ傾きます。
また、役職手当がついたが、残業をしている他の一般従業員の給与の方が高くなってしまったというような場合も同様でしょう。
4 管理監督者に任命した従業員がいる場合
事例の企業における店長が「管理監督者」と認められるかどうかは、上記で解説した経営者との一体性の有無、労働時間の裁量の有無、管理監督者にふさわしい待遇か否かで判断されます。
事例の企業の店長は、アルバイト従業員を部下として管理していたものと思われますが、その採用権限は役員達に握られています。
また、給与等の待遇面では、昇格により優遇されるということが一切ない様子です。この事情だけでははっきりとは言えませんが、企業側としては、リスク管理の観点から管理監督者性は否定される可能性が高いものと考えて元管理職と対峙すべきでしょう。
なぜなら、ここ数年の裁判例を見る限り、管理監督者性を認めた裁判例は数十件中数例という割合であり「管理監督者」性は非常に認められにくい傾向にあるため、否定的要素が散見される時点で厳しい結果が予測されるからです。
そのように考えると、事例の企業では他の店舗の店長も管理監督者として扱っているでしょうから影響の大きい話となります。
では残業代請求をしてきた元管理職のほか、まだ残業代を請求してきていない他の店舗の店長についてはどのように対応していくべきでしょうか。
まず前者については既に退職した従業員ですので、企業としては管理監督者と考えているということを主張して残業代の減額交渉をしていくことになります。
一方で後者については在席している従業員ですから、今後の人事や労務管理という側面からも対処方法を考えなければなりません。
結論としては、以下の2択から対処方法を選択するしかないものと思われます。
1)管理監督者という扱いをやめ、一般従業員同様に労働時間管理をして残業代を支払うようにしていく。これまでの残業代については、遡って精算する。
2)就労の実態を管理監督者に変える。つまり、名ばかり管理職ではなく、裁判例と照らし合わせながら権限や責任の範囲、労働時間の裁量、待遇面を見直していく。
仮に2)を選択する場合、ポイントは、権限や責任の範囲に重きを置くことにあろうかと思われます。
なぜなら、裁判例を見ると、年収1000万円以上で管理監督者性が否定される例もあれば、年収500万円未満でも管理監督者性が認められている例もあり、待遇面はその企業におけるその従業員立ち位置という相対評価で判断されている反面、権限や責任については、企業規模にかかわらず、その企業にとっての重要なポジション、またはその企業の重要な組織単位の中の重要なポジションかどうかという観点で判断がされているからです。
名ばかり管理職からの残業代請求は、請求をしてきた従業員との関係だけを考えればよいという問題ではなく、他の管理職従業員との関係にも大きな影響がある重大な問題です。
もし管理職従業員から残業代の請求を受けた場合は、この問題を軽視せず、これを機に専門家の助言を受けながら企業内の法務・労務環境を適正に整備することをお勧めします。
当事務所でも、このようなご相談は随時受けていますので、お気軽にご相談ください。
弁護士法人シーライト
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