【メルマガ先行公開】痴漢行為で逮捕された場合、懲戒処分の対象となるのか?

もし、雇用している従業員が痴漢行為により逮捕されてしまった場合、企業としてどう対応したらよいのでしょうか。
痴漢行為を行ってしまった従業員を懲戒処分の対象として解雇しても問題ないのか?という点について考えてみたいと思います。

1.痴漢行為と罰則

痴漢行為の罰則は、大きく2通りに分かれます。
1つは、条例違反(迷惑防止条例)です。
法定刑としては、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金です。ただ、常習犯の場合は、1年以上の懲役または100万円以下の罰金です。

もう1つは、刑法犯(強制わいせつ罪)です。
法定刑としては、6ヶ月以上10年以下の懲役です。つまり、刑法犯の方が処分が重くなります。
条例違反なのか、刑法犯なのかの線引きは、行為の悪質性等で判断されますが、一般的には、衣服の外側からの行為であったか、衣服の中への侵襲があったかが線引きの大きな決め手であると考えられています。

2.痴漢行為での懲戒解雇と裁判例

痴漢行為での解雇処分の有効性が争われた裁判例を2件ご紹介します。いずれも鉄道会社従業員の事案でした。

小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日判決)
この事件では、鉄道会社従業員の条例違反の痴漢行為を理由に懲戒解雇が有効と判断されました。
また、懲戒解雇の半年前に同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、降職の処分を受けていた状況下での再犯という点もポイントになったものと考えられています。
東京メトロ事件(東京地裁平成27年12月25日判決)
地下鉄駅員の地下鉄内痴漢行為(条例違反)による罰金刑を理由とする諭旨解雇(解雇ではありますが懲戒解雇よりも処分の重さが一段落ちます)が無効と判断されました。
処分対象となった痴漢行為の法定刑が軽かったこと、実際に処せられた刑が罰金20万円で悪質性が比較的低かったこと、企業秩序に与えた具体的な悪影響がさほど大きくなかったことなどがポイントとなったものと考えられます。

3.使用者側弁護士たちのアンケート

痴漢行為と懲戒処分について、使用者側の労働問題を取り扱う弁護士で構成された研究会においてアンケートが実施されました。
その結果は、上記裁判例のように痴漢行為という客観的な事実のみをもって処分理由とするのではなく、会社の業種やその従業員の担当職務との関連性などを踏まえ、対応を決めていく必要があるといった意見が多くあり、一概に決まった判断ができるものではなかったようです。

4.懲戒処分の問題については、弁護士にご相談ください

痴漢をしたことを理由にその際には、社の知名度、業種、規模、業務の種類が一般消費者を対象とするものかどうか、従業員の地位、役職、担当業務などから、その行為が会社の社会的評価に影響を及ぼす程度がどのようなものかを主に考慮して対応を決定することになります。

一口に従業員が痴漢行為をしたといっても、その悪質性はさまざまであり、懲戒解雇をした場合に有効とは言えないケースも多いので、個別の事案に応じて慎重に検討し、決定していく必要があります。

判断には、行為の態様のほかに、従業員による痴漢行為による企業の社会的評価の影響、企業の知名度、業種などの面からも考慮していく必要があります。
裁判例も判断が分かれるなどしており、使用者としては、痴漢行為による解雇と安易に考えるわけにはいかないという状況であるということがいえそうです。

懲戒処分は、労働者保護の観点から法律による厳しい規制がなされています。
そのため懲戒処分を誤ってしまった場合や手続に誤りがあった場合は、社員から懲戒処分無効の訴訟をおこされてしまうリスクがあります。
企業側がこのようなリスクを回避し、適切な懲戒処分を行うためには、企業法務に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士法人シーライトでは、企業法務を取り扱っております。労務問題でお困りの場合は、まずはご相談ください。

The following two tabs change content below.

弁護士 阿部 貴之

企業法務全般に精通し、特に労働法および人事・労務管理に関する実務において豊富な経験を有する。企業の人事・労務管理担当者が直面する複雑な法的課題を的確に分析し、法的リスクの最小化を図るとともに、より良い職場環境の構築を支援することで、生産性の向上および企業の持続的な成長に貢献している。