セクハラ問題においてどのような処分が妥当なのか? ~懲戒処分は妥当か否か~
今回は、セクハラ問題についてご紹介します。
たとえば、セクハラやセクハラに伴う嫌がらせなどが、従業員の間において行われた場合、懲戒処分をするべきか否か、もし懲戒処分をする場合には、どのような懲戒処分が妥当なのかなどについて考えてみたいと思います。
Contents
1 労働実務者研究会にて取り上げられた設例
使用者側の労働問題を取り扱う弁護士で構成された研究会において、以下のような事例が検討されました。
設例①
A後輩社員B(入社5年目女性)に対し「仕事の成果があまり出ていないようだが、2人きりでの食事につきあってくれたら、成果の表れる仕事の仕方を教えてもよい」などと2ヶ月に渡り、食事に誘い続けた。
Bは、都度誘いを断ってきたが、誘いのしつこさに気分が憂鬱になり、出社が苦痛になってきたため、勤務先の従業員組合に相談したうえで、会社のハラスメント通報窓口に通報した。
設例②
設例①の場合において、やむなくBが一度Aの誘いを受けたものの、それ以来Aが毎日のようにBを食事に誘うようになり、Bは嫌々その誘いを受け続けた。
そのような状況が2ヶ月ほど続き、BはAと顔を合わせるだけで憂鬱になり、出社することも苦痛を感じるようになったため、勤務先の従業員組合に相談したうえで、会社のハラスメント通報窓口に通報した。
なお、Aとの食事での話題は、Aの妻の愚痴やBの恋愛・交友・家族関係等、仕事とは関係のないプライベートに関する話題が大半であった。
設例③
設例②の場合において、Bは勤務先の従業員組合に相談する前に、Aに対し今後2人きりの食事は遠慮したいと述べて丁重に断ったところ、Aからの食事の誘いはなくなった。
その代わりAは、Bから仕事のアドバイスや協力を求められてもはぐらかすような対応をしたり、起案した文書のチェックでは、要修正箇所の具体的な指摘もなく何度も書き直しを求めたりするようになった。
そのため、Bは勤務先の従業員組合に相談したうえで、会社のハラスメント通報窓口に通報した。
セクハラ行為にあたるのか否か
では、上記①~③の設例に登場するAの行為というのは、セクハラにあたるのでしょうか。
セクシュアル・ハラスメントは、相手方の意に反する性的言動と定義されることが多いのですが、厚生労働省の定めた指針が参考になります。
この指針によると、「食事やデートに執拗に誘う」行為についてもセクシュアル・ハラスメントにあたるものとされております。
そのため、設例①~③におけるAの行為は、いずれもセクハラにあたる可能性が十分にある言動といえるでしょう。
2 設例に対するアンケート結果
上記設例①~③に対して、使用者側の労働問題を取り扱う弁護士で構成された研究会においてアンケートが実施されました。アンケート結果は以下のとおりでした。
設例①に対する見解
Aの行為に対して「処分なし」という意見が複数ありつつも、懲戒処分(譴責、減給、出勤停止1週間以内など)を相当とする旨の意見が多くありました。
ただし、懲戒解雇という意見はありませんでした。
設例②に対する見解
Aの行為に対して「処分なし」という意見が複数ありつつも、懲戒処分(譴責、減給、出勤停止1週間以内など)を相当とする旨の意見が多くあり、設例①の場合と比較し設例②のケースの方が、懲戒処分として出勤停止を相当とする意見が多くありました。
ただし、懲戒解雇や諭旨解雇という意見はありませんでした。
設例③に対する見解
Aの行為に対して「処分なし」という意見が複数ありつつも、懲戒処分として減給や出勤停止1週間以内などを相当とする旨の意見が最も多く、その次に多い意見が降格を相当とするという意見であり、諭旨解雇を相当とする旨の意見も複数ありました。
セクハラ行為を行った人に対し、どういった処分を考えるべきかについては、人事院作成の「義務違反防止ハンドブック」も参考になります。
懲戒処分を考えるにあたっては、法律上どうあるべきかを考えるだけではなく、セクハラによって乱された職場環境の回復や労働者全体の労働効率の維持・向上も考えなければならないため、難しい問題となります。
また、実際に懲戒処分をする場合には、その処分の程度を決めなければなりません。セクハラ行為の悪質さのレベル、被害者の処罰感情の有無や加害者の謝罪の有無などを総合的に考慮して、最終的な処分を決定していく必要があります。
社内でセクハラ問題が発生した際は、最初の動き出しのスピードと正しい対応が大切になります。誤った懲戒処分をしてしまわないためにも、労務問題に詳しい弁護士にご相談ください。

弁護士 阿部 貴之

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