ハラスメントが発生してしまった場合の会社の対応フロー
会社におけるハラスメント対策(予防)が重要であること、中小企業もパワハラ対策が義務付けられることなどを、このホームページのコラムでも解説しています。
しかし、会社では様々な人間関係が発生しますので、どうしてもハラスメントが起きてしまうこともあります。本稿では、そうした場合に会社はどのような対応を取るべきなのかについて、詳しく解説します。
ハラスメントは、通常ハラスメント被害者の相談から判明しますので、それを前提とした対応フローをご説明します。
Contents
① 相談者からの相談・ハラスメント相談窓口の対応
まず、大前提としてハラスメント相談窓口が設置されている必要があります。中小企業でも、ハラスメント相談窓口の設置が2022年4月から義務化されますので、必ず設置するようにしましょう。
ポイントとしては、以下のとおりです。
(1)中立な対応
特に相談初期は、事実関係が確定しておらず、争いのある事実も分からない段階ですから、相談者と相手方のどちらかを一方的に「悪者」と決めつけるような対応は厳に避けるべきです。
(2)親身な対応
相談者は、いろいろと悩み・相当な逡巡を経て、やっとの思いで相談窓口に問い合せてきています。そのような思いに配慮し、まずは「何があったのか(あったと認識しているのか)」「相談者の希望は何か」といった相談者の言い分を中心に傾聴することに注力すべきです。
上記の「中立な対応」と両立するのは難しいですが、要は「決めつけたり即断したりせず、言い分を詳しく聴き取る」ことに集中すればよいでしょう。
(3)迅速な対応
相談希望・問い合わせがあったにもかかわらず、放置したり、黙殺したりすることは許されません。そのような不適切な対応が、会社の安全配慮義務違反として損害賠償の対象となる場合もあります。
相談希望があった場合には、速やかに適切な相談担当を配置し、相談日程を組みましょう。
相談を受けた後は、これから説明する「②相談者の意向確認」以下を実践する必要があります。
② 相談者の意向確認
(1)相談者に調査希望がない場合
ハラスメントの相談があったからには、会社として調査を行うことを原則とすべきです。しかし、相談者は、「相談を話しているうちに、大事にしなくてもよいと思った」「相手方から恨まれるのが怖い」等の理由から、それ以上の調査を希望しない場合があります。
会社としては、プライバシー保護や相手方からの報復禁止措置を取ることなど、可能な限りの相談者保護措置を取ることを約束したうえで、調査に進むことを説得すべきです。
それでも、相談者が頑なに調査を拒否する場合には、調査を諦めざるを得ません。ハラスメント対策は、第一に被害者・相談者のためにあるべきだからです。
しかし、ハラスメントを放置することはできませんので、相談があったこと自体は伏せたうえで、事案を抽象化するなどして「◯◯のような行為は、パワハラに当たるので、厳に禁止すべきことを注意喚起する」などの全社向けに告知する、ハラスメント防止研修を実施するなどの再発防止対策が必要でしょう。
(2)相談者に調査希望がある場合
相手方を含む関係者の事情聴取を実施する必要がありますので、事情聴取の方針を決めましょう。
③ 事情聴取の方針決定
相談者と相談者が申告するハラスメントの相手方からの聴取は必須です。
どちらか一方のみの聴取というものは、あり得ないと考えてください。また、目撃者や直属の上司など事情を詳しく知っている人がいれば、その人も聴取対象とすべきですが、関連性の薄い人物からも聴取していたずらにプライバシー侵害となることは避けるべきです。
事情聴取の順番は、相談者⇒相手方⇒第三者を基本とすべきです。
まず相談者の言い分を聞き、それに対する相手方の言い分や認識を聞いたうえで、争いのある部分を中心に第三者に確認するということが適切だからです。必ずしも同日に実施する必要はありませんが、日程が開くことにより、口裏合わせや証拠隠滅の可能性があることに注意しなければなりません。
事情聴取実施者は、社内の者が行っても問題はありませんが(社内規則などで定まっている場合もあります)、言い分が大きく食い違いそうな案件の場合には、当初から社外の専門家に事情聴取実施者を依頼する方が適切な場合があります。
具体的には、社内の事情をよく知っている顧問社労士や、訴訟の経験から事実認定に詳しい弁護士などです。
④ 緊急措置の検討
事実認定が終わり、ハラスメント該当性の評価が終わってからでないと、相手方に対する懲戒処分や配置転換などは行えません。しかし、それらの判断までには、通常1か月以上はかかるでしょうから、その間、主に相談者の就業環境を改善・保全するという観点から、暫定的な措置を行う必要があることがあります。具体的には以下のとおりです。
(1)相手方に対し、相談者への接触・報復の禁止、調査妨害の禁止を命ずる措置
これは、調査を行う全事案につき命じておく必要があるものというべきです。
(2)相手方の執務場所の暫定的変更
例えば、相談者と相手方の席が近い、同部屋で接触する機会が多いなどの場合には、業務命令として、デスク位置の変更、執務スペースの変更などが考えられます。ただし、あくまで暫定的な措置ですので、業務命令が濫用的逸脱的なものにならないよう注意する必要があります。
(3)相手方への自宅待機命令
業務命令として、相手方に自宅待機を命ずるという選択肢もあり得ます。ただし、業務命令によって自宅待機になるので、相手方に対しては、自宅待機前と同額の賃金を支払う必要があります。自宅待機期間が長期に渡ると、自宅待機命令自体が違法となる可能性があるので、事実調査・事実認定・ハラスメント該当性判断は、速やかに進める必要があります。
⑤ 事情聴取
事情聴取の方針が決まったら、各関係者へ事情聴取を実施します。事情聴取にはスキルや経験も必要なので「こうすれば、絶対良い」という特効薬は残念ながらありませんが、ポイントを挙げます。
(1)ゴールを意識する・ゴールから逆算する
漫然と対象者の話すことを聞いていても、話があちこちに分散してまとまりません。「どのようなことをしたいから事情聴取するのか」を意識しましょう。
具体的には、多くの事案では、ハラスメントの有無、程度・態様・期間・回数が重要だと思いますので、そこに絞って聴き取っていきましょう。
(2)事前にヒアリングシートを作成する
(1)とも関連しますが、既に相談者などから収集した客観的な証拠などから、ある程度事案を整理し、疑問点や争点になりそうな部分を洗い出し、重点的に聴取する部分をまとめた書面(ヒアリングシート)を作成しましょう。
(3)事情聴取内容の記録化
原則として聴取内容は録音しましょう。特に相手方との聴取について「言った、言わない」の争いになることを避けるためです。また、聴取したら、すぐに(記憶の新鮮なうちに)メモ程度でも良いので、聴取内容を書面化しておきましょう。
⑥ 事実認定
事情聴取や証拠収集により、争いのある部分、争いのない部分が明確になった場合には、主に争いのある部分について、事実認定をする必要があります。
認定した事実を前提に、ハラスメントに該当するのか否か判断する必要があるからです。
しかし、ハラスメント行為、とりわけセクハラは、当事者双方の言い分が対立しがちであるばかりでなく、密室で行われる性質の行為なので、事実認定が極めて難しいことが多いです。そのような場合には、どちらの言い分が信用できるかというギリギリの判断を迫られますが、事実認定作業に慣れていない一般の方には、極めて難しい作業と思います。
相談者から相談を受けた段階で、そのような案件であると考えられた場合には、早めに弁護士に対応を依頼する方が適切といえるでしょう。
(1)ハラスメントに該当
事実認定の結果、相談者の主張するハラスメント行為が一部でも認められるという場合には、当該認定された行為を前提として、相手方への懲戒処分・配置転換等の検討に進みましょう。
⇒⑦「懲戒処分・配置転換等の検討」以下をご参照ください。
(2)ハラスメントに該当しない
事実認定の結果、相談者の主張するようなハラスメント行為が認められない場合や、相談者の主張する行為があったこと自体は認められるがハラスメントと評価できない場合には、⑧「ハラスメント相談者へのフィードバック」へ進みます。
具体的には、「相談者の主張する行為が認められなかった、又は行為はあったと認められたがハラスメントとは評価できなかった」と報告することになりますが、相談者は容易には納得しないでしょう。そこで、結論だけでなく、理由の要旨程度は開示することが相談者の納得のために必要といえます。
もっとも、調査報告書などの詳細な内容、収集した証拠、「誰がどのように供述したか」の内容までを開示する義務まではありません。
また、相談者が再調査を要求してくることがありますが、会社には「相談者が納得いく(満足する結論)を得るまでの再調査」まで行う義務がないことを覚えておきましょう。しかし、調査では判明していなかった新証拠・新証言などが出てきた場合には、再調査をする必要があると考えられますので、相談者にはその点を丁寧に説明しましょう。
⇒⑧「ハラスメント相談者へのフィードバック」以下をご参照ください。
⑦ 懲戒処分・配置転換等の検討
ハラスメントに該当することが認められた場合、通常は、就業規則上の懲戒処分事由に該当することになりますから、懲戒処分をすることができます。仮に、就業規則に根拠がない場合、懲戒処分をすることが違法になりますから、自社の就業規則を整備しておきましょう。
懲戒処分の種類は、一般的には、けん責・戒告、減給、出勤停止、降職・降格、諭旨解雇・懲戒解雇であることが多いです。このいずれを選択するかが重要ですが、一言でいえば、「ハラスメント行為に相応な処分」をしなければならないということがいえます。つまり、軽微なハラスメント行為に対し、重い処分をしてはなりません。この判断は、極めて難しいですが、人事院の「懲戒処分の指針」が参考になります。
懲戒処分と併用して、または懲戒処分はせずに、人事上の措置として配置転換を行うことが考えられます。基本的には、加害者の配置転換を行うべきであり、被害者の配置転換を行うには、被害者の真の同意があるなどかなり特殊な場合に限られると考えた方がよいと思います。
⑧ ハラスメント相談者へのフィードバック
上記「⑥事実認定のハラスメントに該当しない」で説明した内容と同様ですが、結論だけなく、理由の要旨程度は説明することが、相談者の納得のためには必要でしょう。
⑨ 再発防止策の計画・施行
一般的に、再発防止策として、ハラスメント防止研修の実施、代表からのメッセージ発信、相談窓口の改めての周知などが考えられます。
加害者に対する懲戒処分を公表するか否かが問題となりますが、慎重に検討する必要があります。なぜなら、被害者が特定されてプライバシー侵害になるおそれがあるばかりでなく、被処分者の個人情報や納得にも配慮する必要があるからです。
他従業員への周知や注意喚起の効果などの点も総合的に考えて公表の有無や公表内容を決定する必要がありますが、人事院の「懲戒処分の公表指針について」が参考になります。
まとめ
会社は、ハラスメントが生じてしまった場合、ハラスメント相談があった場合には、さまざまなことに配慮しつつ、迅速かつ適切に動かなければなりません。事実関係の調査や加害者の懲戒処分などについては、事実認定や証拠収集のノウハウを含めた対応が必要ですので、早めに、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
弁護士法人シーライト
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