採用内定の法的性質と内定取消しについて

年度末が近づいてきましたが、この記事をご覧になっている経営者の皆様は、新たに従業員となる方に内定を出される機会も多くあるかと思います。ただ、内定を出したはいいけれど、「やっぱりあの人を内定とするべきではなかった・・・」、「内定後に問題があることが発覚したけど、内定を取り消すことはできないかな?」などと思われたことはないでしょうか?
この記事では、採用内定の法的性質と内定取消しについて解説いたします。今後の従業員の採用活動にあたって、ぜひ参考にしてください。
Contents
1.内定とは?
まず、(採用)内定とは、一般的には、企業から内定者に内定通知書を出し、それに対して内定者が誓約書等を提出することで、採用の合意がなされた状態をいいます。
これを法的に言うと、採用が内定すると、入社予定日を就労の始期として、内定取消事由が生じた場合に企業が解約できる権利がある「始期付解約権留保付労働契約」が、企業と内定者との間で成立したと考えられています。
つまり、内定となった段階で、企業と内定者との間には労働契約がすでに成立していて、企業は自由に内定取り消しをすることはできない、ということになります。
2.内定取消しができる場合とは?
では、内定取消しは、具体的にどのような場合ならできるのでしょうか?
判例によると、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」と判断されています(最二小判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁)。
具体的には、以下のような場合には内定取消しができると考えられます。
- 提出書類に重大な虚偽記載がある場合
- 大学等を卒業できなかった場合
- 就労までに必要な資格等を取得できなかった場合
- 業務に重大な支障が生じる健康上の問題があることが発覚した場合
- 刑事事件を起こした場合
- 内定通知書や誓約書等で定めた内定取消事由に該当した場合
(ただし、内定取消事由が客観的に合理的で社会通念上相当なものであることが前提) - 企業が経営難で、整理解雇の要件を充たす場合
3.内定取消しの届出と企業名公表について
企業が内定取消しを行うにあたっては、以下の点に留意する必要があります。
(1)企業が、新規学卒者の内定を取り消す場合には、事前にハローワークに通知をする必要があります(職業安定法施行規則35条2項2号)。
(2)内定取消しの内容が以下の事由のいずれかに該当する場合には、厚生労働省のWEBサイトで企業名や取消しの内容が公表されることがあります(職業安定法施行規則17条の4、平21.1.19厚生労働省告示第5号)。
- 2年度以上連続して行われたもの
- 同一年度内において10名以上の者に対して行われたもの
- 生産量その他事業活動を示す最近の指標、雇用者数その他雇用量を示す最近の指標等に鑑み、事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに行われたもの
- 次のいずれかに該当する事実が確認されたもの
- 内定取消しの対象となった新規学卒者に対して、内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
- 内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき
4.内定者からの内定辞退について
雇用期間を定めていない場合には、内定者は内定辞退をいつでもすることができ、内定辞退の申し入れから2週間が経過すれば退職できます(民法627条1項)。
経営者の皆様の中には、採用選考の費用をかけて、他の候補者をお断りしていたにもかかわらず内定辞退をされてしまうと多大な損失を被ってしまうため、「内定辞退者に対して損害賠償請求ができないか?」とお考えになる方がいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、「内定辞退の申し入れが、著しく…信義則上の義務に違反する態様で行われた場合に限り、…債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負う」と判断している裁判例(東京地判平成24年12月28日労経速2175号3頁)があることから、内定辞退者に対する損害賠償請求が認められるケースはほとんどないと考えられます。
弁護士法人シーライトでは、顧問契約を締結していただいた企業様の労務問題や問題社員への対応に関するアドバイス等にも力を入れて取り組んでおります。採用内定に限らず、日頃行っている人事労務管理にご不安があるという方は、お気軽にお問い合わせください。

弁護士 塩谷 恭平

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