年次有給休暇の時季変更権って何?
年末年始が近づく時期ですが、
この記事では、年次有給休暇の時季変更権について解説いたします。
従業員から有給休暇の申請があった際にスムーズに対応できるように、ぜひ参考にしてください。
Contents
1.時季変更権とは?
そもそも年次有給休暇については、労働基準法39条5項で「使用者は、全各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と規定されているため、従業員が希望する日に年次有給休暇を与えるのが原則です。
そして、「時季変更権」とは、従業員の年次有給休暇の申請に対して、会社側から年次有給休暇を与える日を変更することができる権利です。時季変更権は「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」(同項但し書き)と定められています。この太字部分から分かるとおり、時季変更権は、従業員が請求した日に年次有給休暇を与えてしまうと「事業の正常な運営を妨げる場合」にのみ使用できることになっています。
2.事業の正常な運営を妨げる場合とは?
では「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
法律上は、具体的にどのような場合が「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するのかは明記されていませんので、個々の事案に応じて、企業の規模や業務の繁閑、業務内容などの諸般の事情を考慮して判断する必要があります。
もっとも、判例によると、シフト制で、代替勤務者の確保が可能であったにもかかわらず、企業側がその配慮をせずに時季変更権を行使したという事案で、時季変更権の行使は、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないと判断されています(最高二小判昭和62年7月10日最高裁判所民事判例集41巻5号1229頁)。
このことからすると、単に「今の時期は忙しい」という理由だけでは「事業の正常な運営を妨げる場合」とは認められず、企業側が代替要員の確保等の合理的な努力をしてもなお業務に支障が出てしまうという場合でない限り、時季変更権の行使が違法と判断されてしまう可能性が高いと考えられます。
なお、退職予定の従業員が、退職日までの間に残っている年次有給休暇の取得を希望するというケースがあるかと思いますが、このようなケースで他の時季に年次有給休暇を与えることができないにもかかわらず、時季変更権を行使することは基本的に認められません。
3.時季変更権の行使方法について
まず、時季変更権の行使時期ですが、従業員から年次有給休暇の申請があったら、企業側は速やかに時季変更権の行使をするかどうかを検討し、行使する場合には時季変更権を行使する旨を従業員へ伝える必要があります。
時季変更権をどのように行使するかは法律上明記されていません。そのため、従業員へ口頭で伝えても問題はないですが、時季変更権を行使したことを明確にするためにも、書面で通知をした方が良いと考えられます。その際、従業員に希望する日に年次有給休暇が取れないことを納得してもらうためにも、時季変更権を行使する理由をできる限り具体的に書面に記載したり、従業員に対して理由を十分に説明するようにすべきです。
時季変更権の行使にあたっては、企業側で年次有給休暇を取得できる代わりの日を従業員に提示する必要まではありません。
4.時季変更権の効果について
企業が時季変更権を正当に行使した場合、従業員が年次有給休暇の取得を希望していた日は労働日ということになります。そのため、その日に従業員が出勤しなかった場合には、無断欠勤として取り扱うことができます。さらに、無断欠勤を理由として懲戒処分をすることも考えられますが、無断欠勤という行為に対して懲戒処分の内容が重すぎる場合には懲戒処分が無効となる可能性が高いですので、懲戒処分をする際は慎重な判断が必要です。
弁護士法人シーライトでは、顧問契約を締結していただいた企業様の労務問題や問題社員への対応に関するアドバイスにも力を入れて取り組んでおります。年次有給休暇に限らず、従業員への対応にご不安があるという方は、お気軽にお問い合わせください。

弁護士 塩谷 恭平

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