その身元保証、有効ですか?身元保証契約の有効期間や注意点等について解説
採用時に、採用予定の労働者に対して、身元保証人を設定するよう求めることもあるかと思います。こうした場合に、「身元保証契約はよく分からないから、とりあえず従前から使っていた身元保証書をそのまま使いまわしている」という企業様も意外と多いのではないでしょうか。
この記事では、身元保証契約の有効期間や注意点等について解説いたします。
身元保証人との間で適切な身元保証契約を締結するために、ぜひ参考にしてください。
Contents
1.身元保証契約とは?
まず、「身元保証契約」とは、「身元保証ニ関スル法律」に基づく、事業主と雇用される労働者の身元保証人との間で締結される契約のことです。
身元保証契約を締結するメリットとしては、主に以下の3つが考えられます。
1-1.経済的損害の確実な回収
身元保証契約を締結する最も重要なメリットとしては、労働者が、会社のお金を使い込んだり、雇用契約に基づく仕事をきちんとしなかったり等によって、事業主に経済的損害を与えたときでも、損害額の回収ができるようになります。
身元保証人を設定することによって、たとえ労働者が損害額を全額支払えない場合でも、身元保証人に請求して損害額を回収することが可能になります。
1-2.労働者の緊急連絡先の確保
身元保証人を設定することによって、労働者の緊急連絡先を把握することができることもメリットのひとつです。
労働者が行方不明になってしまった時やうつ病などの精神疾患になって連絡が取れなくなってしまった時などに、事業主から身元保証人に連絡を取って協力を求めたり、緊急の連絡をすることが可能になります。
1-3.労働者の不正行為の防止
身元保証人を設定することによって、労働者に、「身元保証人には迷惑をかけられない」と意識させることで、売上金の横領などの不正行為を防止する効果があると考えられます。
2.身元保証契約の有効期間について
身元保証契約の有効期間は、原則は3年間ですが、最大5年間まで設定することが可能です(身元保証ニ関スル法律第1条、第2条1項)。
たとえ事業主と身元保証人との間で5年を超える期間を合意した場合であっても、5年に短縮されてしまいます。
3.身元保証契約の範囲について
事業主にとってメリットのある身元保証契約ですが、身元保証人を設定したら損害額をすべて請求できるという訳ではありません。身元保証人に過大な責任を負わせることがないように、法律でその範囲が規定されています。
3-1.身元保証人の損害賠償責任及びその金額の判断基準について
身元保証ニ関スル法律第5条では、身元保証人の損害賠償責任及びその金額を裁判所が判断する上での考慮要素を以下のとおり規定しています。
① 労働者の監督に関する事業主の過失の有無
② 身元保証人が身元保証をするに至った事由
③ 身元保証をする際の身元保証人の注意の程度
④ 労働者の任務または身上の変化
⑤ その他一切の事情
裁判所は、これらの要素を総合的に考慮して、身元保証人の責任の度合いや損害賠償の金額を判断することになります。
そのため、身元保証人を設定しても、最終的に損害額全額を回収できない場合があることに注意が必要です。
3-2.極度額の設定について
2020年4月の民法改正によって、身元保証契約の締結の際に、極度額(身元保証人が負う損害賠償金の上限額)を設定することが義務付けられたため、極度額が記載されていない身元保証書は無効になってしまいます(民法465条の2第2項)。
そのため、身元保証書には、極度額の定めを記載するようにする必要があります。極度額は事業主と身元保証人との間の合意で決めることができますが、あまりに高額な金額を設定すると身元保証人に身元保証契約を締結してもらえないという事態が発生してしまうため、適正な金額設定を行うことが重要です。
4.身元保証契約の注意点について
身元保証契約に際して、上記以外に事業主が把握しておくべき注意点としては、以下の点が考えられます。
4-1.事業主の通知義務
身元保証ニ関スル法律第3条では、以下の事由が生じた場合には、事業主は、身元保証人へ遅滞なくその旨を通知しなければならないと規定しています。
① 労働者に業務上不適任または不誠実な事実があり、この事実によって身元保証人に責任が生じるおそれがあることを知ったとき
② 労働者の任務または任地を変更し、この変更によって身元保証人の責任が加重したり、監督が困難になったりするとき
なお、身元保証人は、上記の通知を受けたときや上記事由を知ったときに、事業主に身元保証契約を将来に向かって解除することができます(身元保証ニ関スル法律第4条)。
事業主が上記通知義務を怠った場合には、身元保証人への損害賠償請求が認められなくなる可能性がありますので、通知を怠らないように注意が必要です。
4-2.身元保証書の再提出
身元保証契約は更新することもできますが、更新後の有効期間も最大5年間となります(身元保証ニ関スル法律第2条2項)。
身元保証契約については、たとえ自動更新の特約を規定していたとしても、身元保証ニ関スル法律第6条により無効である(=自動更新は認められない)と判断した裁判例(札幌高判昭和52年8月24日下級裁判所民事裁判例集28巻5~8号885頁)があるため、身元保証書に自動更新の特約を設定するのではなく、有効期間の満了前に事業主が身元保証書の再提出を求めることができる旨の規定を就業規則に記載しておくのが良いと考えられます。
シーライトでは、顧問契約を締結していただいた企業様の各種契約書や就業規則のチェック・改訂にも力を入れて取り組んでおります。身元保証契約や就業規則の内容について一度見直したいという方は、お気軽にお問い合わせください。
弁護士法人シーライト
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