事業場外労働時間制と専門型裁量労働制の「みなし労働時間制度」について

会社は基本的に、労働時間に応じて従業員へ適切に給与を支給しなければなりません。ただし一定のケースでは「みなし労働時間」を適用して実際に働いた労働時間とは異なる額の給与を支給できます。

このような給与体系には「事業場外のみなし労働時間制」や「専門型裁量労働制」があります。

この記事では、実際の労働時間にとらわれない給与計算方法を実現できる事業場外のみなし労働時間制と専門型裁量労働制の内容や導入方法について、弁護士が解説します。

柔軟な給与計算方法の導入を希望されている場合、ぜひ参考にしてみてください。

1.事業場外のみなし労働時間制とは

事業場外のみなし労働時間制とは、労働時間の把握が困難な職種について、「一定時間働いたとみなす」制度です。

たとえば外回り営業社員などの場合、社員が現場に直行したり直帰したり複数の取引先を訪問したりして、企業側に労働時間の把握が難しくなる状況があります。

そのような場合、事業場外のみなし労働時間制を適用して、一定の時間「働いたとみなす」ことができる可能性があります(ただし外回り営業社員の場合にすべてのケースでみなし労働時間制を適用できるわけではなく、適用場面は限定されています)。

事業場外のみなし労働時間制が適用される場合、実際に従業員が何時間働いたかは給与計算に無関係です。たとえば労働時間を1日8時間とみなす場合、実際に働いた時間が9時間でも7時間でも8時間働いたものとして給料を計算します。

2.事業場外のみなし労働時間制の対象となる仕事

事業場外のみなし労働時間制は、どのような従業員にも適用できるものではありません。

対象となるのは事業場以外の場所で仕事を行い、企業側による具体的な指揮監督が及ばない業務に限られます。実際の適用場面は小さいと考えてください。

事業場外で働く社員であっても、以下のような場合には企業側の指揮監督が及ぶと考えられるので、事業場外のみなし労働時間制を適用できません。

・複数人で事業場外の仕事を行っており、メンバーの中に労働時間を管理する担当者がいる場合
・無線や携帯電話などによって随時経営者側の指示を受けながら事業場外で働いている場合
・いったん出社して訪問先や帰社時刻などの業務について具体的な指示を受け、事業場外に行って指示どおりに仕事をしてまた事業場に戻る場合

裁判でも事業場外のみなし労働時間制を適用できるかどうか、争われるケースが少なくありません。
専門的な見地から個別具体的な判断が必要となりますので、適用できるかどうか迷った場合には弁護士へ相談しましょう。

3.事業場外のみなし労働時間制のメリット

事業場外のみなし労働時間制を導入すると、労働時間の把握が難しい従業員について無理に労働時間を計算する必要がなくなります。給与計算の作業を簡略化できるメリットがあるといえるでしょう。1日8時間・1週間に40時間の法定労働時間を超えて働いても残業代(割増賃金)支払いの必要がありません。

従業員には時間に縛られない働き方をさせることができます。自分の裁量で働けるので、従業員側にとっても魅力を感じられるケースがあります。

4.事業場外のみなし労働時間制のデメリット

事業場外のみなし労働時間制は、いつでも適用できるわけではありません。適用される場面は極めて限定されています。

適用してはならないケースで無理に適用すると、違法となって後に未払い残業代の支払いが必要になる可能性もあります。従業員側から無効を主張され、トラブルになるケースも少なくありません。

5.事業場外のみなし労働時間制を導入する手続き

事業場外のみなし労働時間制を導入する場合、以下のような手続きが必要です。

労使協定を締結する

事業場外のみなし労働時間制を導入するには、労使協定を締結しなければなりません。
協定では以下のような内容を取り決めましょう。

・対象業務
・みなし労働時間
・協定の有効期間

6.専門業務型裁量労働制とは

労働時間をみなす制度の2つ目として、専門業務型裁量労働制があります。

これは一定の専門的な仕事をする労働者について、労働者の裁量によって労働時間を決めることを認める制度です。専門業務型裁量労働制を適用する場合にも、実際に働いた労働時間を計算しません。一定時間働いたとみなしてその時間に見合った給与を払えば足ります。

7.専門業務型裁量労働制の対象となる業務

専門業務型裁量労働制を導入できる業務は以下の19種類です。

・新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務

・情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう)の分析又は設計の業務

・新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法 (昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第二十八号 に規定する放送番組(以下「放送番組」という)の制作のための取材若しくは編集の業務

・衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務

・放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務

・広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務

・事業運営において情報処理システム(労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第2号に規定する情報処理システムをいう)を活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務

・建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務

・ゲーム用ソフトウェアの創作の業務

・有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務

・金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

・学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)

・公認会計士の業務

・弁護士の業務

・建築士の業務

・不動産鑑定士の業務

・弁理士の業務

・税理士の業務

・中小企業診断士の業務

8.専門業務型裁量労働制を導入する手続き

専門業務型裁量労働制を導入する際にも労使協定を締結する必要があります。
以下のようなことを定めましょう。

・仕事の方法や時間配分の決定などに関し、企業側が具体的な指示をしないこと
・労働時間の算定については、労使協定の定める方法で一定時間働いたとみなすこと
・労働者の健康・福祉の確保のための措置や苦情処理方法
・有効期間

また適用するみなし労働時間が法定労働時間を超える場合、労基署に届け出る必要があります。
みなし労働時間制度を導入すると、柔軟に対応できて企業側にもメリットがあります。導入を検討する場合、お気軽に弁護士までご相談ください。

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弁護士法人シーライト

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