就業規則を改定して裁量労働制の適用対象者を変更することは不利益変更にあたるか
1 いただいたご相談内容
現在当社では、裁量労働制の対象者を3年以上の研究・職務経験を有し、研究開発の業務に従事する従業員に限定しております。
しかし、裁量労働制の従業員と一般の従業員とが混在することで労務管理が煩雑になっており、また裁量労働制の対象ではないとされた従業員が疎外感を負っているとの声があったことを受け、就業規則の規定から「3年以上の研究・職務経験」という条件を削除しようと考えております。
これが就業規則の不利益変更にあたるか否か、その他何か注意点があれば教えてください。
2 弁護士からの回答
不利益変更にあたる可能性があります。
不利益変更にあたるか否かは実態を見て判断されることになりますが、現在時点で現に支払われている具体的な給与額(例えば直近1年分ほど)が、裁量労働制が適用された結果、減額になるようであれば不利益変更にあたる可能性が高くなります。
適用の結果、減額にならないように調整できれば不利益変更にはあたらないということになります。
不利益変更にあたる場合は次の流れになります。
まず、就業規則の変更に対する合意を得るよう試みることになります。
ただ、この合意にあたっては労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しなければならないとされております(山梨県民信用組合事件・最二小判平28.2.19)。
そして、上記合意が得られなかった場合は、就業規則の変更に合理性が認められるという状況を目指す必要があります。
賃金の減額になるような場合は、そのような不利益を労働者に法的に受任させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければなりません(みちのく銀行事件・最判平12.9.7)。
上記判断はいずれも、不利益の程度、労働条件変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労使間の話合いや交渉状況、その他の諸事情を勘案して判断されます。
3 弁護士の所感・コメント
従業員にとって良かれと思って就業規則を改訂する場合であっても、就業規則の不利益変更にあたるような場合もあります。
特に、給与面で結果として不利益変更になっていないかのチェックは重要です。
給与がからむ問題は従業員の生活に直結する問題のため、裁判では比較的厳しく慎重に判断される傾向にあるのです。
会社の経営に対し金額面からみての影響が軽微であれば、なるべく従業員にとって不利益にならないよう調整し、遺恨のないようにすることがお勧めです。
弁護士 阿部 貴之
最新記事 by 弁護士 阿部 貴之 (全て見る)
- 対策しておけばよかった・・・となる前に、中小企業は労務のリスクマネジメントを! - 2023年3月6日
- 普通解雇・懲戒解雇どちらを選ぶべき?懲戒解雇がお勧めできない3つの理由 - 2023年1月27日
- 問題社員対応(解雇など)を弁護士に相談すべき3つの理由 - 2022年12月23日
相談事例・解決事例に関するその他の記事はこちら
- 解雇無効・バックペイ請求の労働審判手続について合意退職・請求額の約1/4でスピード解決
- 2000万以上の横領被害を1か月半でスピード解決した事案
- 従業員の給与を下げる場合の注意点についての相談事例
- 事故で会社の所有物を壊した従業員に対する損害賠償請求のご相談
- 令和における高年齢者の雇用に関する就業規則整備のご相談
- セクハラに関するご相談
- SNSが絡む労務管理のご相談
- カスタマーハラスメントを繰り返すクレーマーからの不当な訴訟を完全に排斥することができた事案
- 問題社員から提起された解雇無効の労働審判について合意退職のスピード解決(2か月弱 )ができた事案
- 元従業員からの未払賃金・残業代・慰謝料の請求を労働審判で争い、請求額の約1/3で解決できた事例