人事異動は自由にできる?配置転換を拒否されてしまう正当な理由について

企業は自社従業員の人事異動を決定する権限を持ちます。しかし常に人事異動を自由にできるとは限りません。配置転換命令を従業員側から拒否されるケースもあります。

この記事では、人事異動の種類や従業員側から配置転換を拒否される正当な理由について解説します。スムーズに配置転換を行いたい場合にはぜひ参考にしてみてください。

1.人事異動とは

人事異動とは、会社が従業員の配置や立場を変更することです。
人事異動には以下の種類があります。

1-1.転勤

勤務地を変更させる人事異動です。

1-2.配置転換

勤務場所を変えずに部署などを変更する人事異動です。

1-3.昇進・昇格

昇進は、役職を上昇させたり役職を含めた地位を上昇させたりすることです。
昇格は、職能資格制度における資格を上昇させる場合です。

1-4.降格

降格とは、職位や役職を引き下げる場合や職能資格制度における資格などを低下させる場合です。

1-5.出向・転籍

出向とは、従業員を在籍させたまま他会社へ一定期間勤務させることです。
転籍とは、従来の会社をやめて新会社に籍を移させ、転籍先の会社の従業員として仕事をさせることです。

昇進・昇格が行われる場合、従業員と会社との間でトラブルになるケースは少数です。
問題になりやすいのは配置転換や転勤、出向や転籍命令が出た場合といえるでしょう。

以下では特に配置転換が行われたときの問題点を解説します。

2.従業員は配置転換命令を拒否できる可能性がある

会社が配置転換などの人事異動を命じた場合、従業員側が拒否できる可能性があります。
それは、配置転換命令が違法になるケースや法律上の根拠がない場合などです。

たとえば以下のような場合、従業員側は配置転換を拒否できる可能性が高いと考えましょう。

2-1.従業員の職種が限定されている

従業員の種類によっては、職種や出勤場所が限定されているケースがあります。雇用契約書や労働条件通知書などで職種・出勤場所が限定されているのに配置転換を命じると、契約内容に違反する可能性があり、従業員から拒否されるでしょう。

雇用期間中に配置転換命令を出す可能性があるなら、労働契約書には以下のように規定しておくべきです。

「業務内容 ◯◯◯◯
ただし会社は業務上の必要がある場合、従業員に対し職種変更を命じることができる。」

2-2.不当な目的の配置転換

配置転換命令を出せるのは、業務上必要な範囲に限られます。業務上の目的を超えて不当な動機や目的による配置転換は、権利の濫用となり、認められません。

たとえば会社の意に沿わないからといって従業員をやめさせる目的で配置転換を命じたり、労働組合活動を理由に配置転換命令を出したりすると、違法になる可能性が高くなります。

2-3.業務上の必要性がない

配置転換は、人材を適切な場所に配置する目的で行うものです。業務上の必要性がない配置転換はできません。

2-4.法律に違反する場合

配置転換が法律に違反する場合もあります。たとえば男女雇用機会均等法では、性別を理由とする差別的な配置転換が禁じられています。結婚や妊娠出産などを理由とした人事異動もできません(法9条)。

また労働基準法では国籍、信条、社会的身分を理由とした差別的な取り扱いが禁じられています(法3条)。公益通報者保護法は、公益通報者への不利益取り扱いを禁止しています(法5条)。

以上のような法律に違反する配置転換命令は違法であり、従業員は拒否できます。

3.配置転換を拒否された場合の対応方法

従業員から配置転換を拒否されたら、以下のように対応しましょう。

3-1.拒否の理由を確認する

まずは拒否の理由を確認しましょう。

従業員側に配置転換を拒否する正当な理由があるのに、無理に異動命令を貫くと、違法となって命令が無効になってしまう可能性があります。

3-2.人事異動の必要性の説明

従業員側の拒否理由を聞いても配置転換が相当と考えられる場合には、従業員を説得しましょう。

なぜ配置転換が必要なのか、理由を具体的に説明して異動後の職場環境や労働条件などについても説明すべきです。
転勤先までの交通費や引越し手当て、単身赴任手当てなどの支給がある場合、そういった説明も重要となります。

3-3.説得に応じない場合の対処方法

会社側が根拠をもって配置転換を説得したにも関わらず従業員側が応じない場合、人事評価制度への反映を検討しましょう。昇給や賞与の計算で不利益に評価する手段も検討すべきです。

また拒否の理由や態度によっては懲戒処分できる場合もありますし、退職勧奨を検討すべき状況も考えられます。

ただし配置転換を拒否されたというだけで解雇するのは難しいケースが多いでしょう。懲戒解雇が無効になると大きなトラブルが発生するので、解雇は慎重に行いましょう。

4.人事異動のトラブルを予防する方法

配置転換などの人事異動に関するトラブルを防止するには、労働契約上の根拠が必要です。雇用契約書や労働条件通知書には「状況によっては配置転換がありうる」ことを明示しておきましょう。

また就業規則にも、人事異動の条項を入れておくべきです。
たとえば以下のような記載をするとよいでしょう。


(人事異動)

会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。

2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。

3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。


従業員へ配置転換を求める場合、違法と評価されたり従業員から拒否されたりしないように慎重に対応を進めるべきです。自社のみで適切な対応をとるハードルが高いと感じる場合、お気軽に弁護士へご相談ください。

 

The following two tabs change content below.

弁護士法人シーライト

弊所では紛争化した労働問題の解決以外にも、紛争化しそうな労務問題への対応(問題社員への懲戒処分や退職勧奨、労働組合からの団体交渉申し入れ、ハラスメント問題への対応)、紛争を未然に防ぐための労務管理への指導・助言(就業規則や各種内規(給与規定、在宅規定、SNS利用規定等)の改定等)などへの対応も積極的に行っておりますのでお気軽にご相談ください。

その他各種労働問題に関するその他の記事はこちら

弁護士コラムに関するその他の記事はこちら