労基署に最低賃金法違反の指摘を受けないよう気を付けるべきこととは?
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1 最低賃金法はすべての労働者が適用対象
わが国では最低賃金法に基づき最低賃金制度が運用されております(労働基準法28条、最低賃金法)。各都道府県労働局では最低賃金法に基づき、会社や事業主などの使用者が労働者に支払うべき賃金の最低額を定めています。
この最低賃金は雇用形態や性別国籍を問わず、日本国内で働くすべての労働者に適用されます。 そのため、例えば外国人技能実習生だからといって最低賃金に満たない金額で雇い入れ、実際にも最低賃金未満の給与の支払いしかしなかった場合は最低賃金法違反に問われます。 以下、使用者が守るべき最低賃金制度の内容やその違反があった場合はどういったことになるか等について解説していきます。
2 最低賃金の種類(どれが適用されるか)
最低賃金の種類としては、地域別最低賃金と特定(産業別)賃金との2種類があります。
地域別最低賃金についてはよく耳にすることと思われ、なじみのある分類だと思いますが、各地域の産業・賃金・生活費・事業主の資金力などの実際的な違いを考慮し、各都道府県別に決められております。
例えば首都圏の2020年地域別最低賃金は2021年に以下のように改定されました。
2021年 | 2020年 | |
埼玉 | 956 | 928 |
千葉 | 953 | 925 |
東京 | 1,041 | 1,013 |
神奈川 | 1,040 | 1,012 |
これに対して特定(産業別)賃金は、鉄鋼業、製造業、出版業、各種商品小売業、特定の産業・職業について、一般には地域別最低賃金よりも高い金額が定められていることが多いです。そして、地域別最低賃金と特定(産業別)賃金の金額を比較し、どちらか高い方が適用されるので、使用者は高い方の最低賃金に基づいた支払いをしなければなりません。
ただし、以下の労働者については特定(産業別)賃金が適用されないため、産業・職業に関係なく、地域別最低賃金が適用されます。
・18歳未満又は65歳以上の者
・雇入れ後3月未満の者であって技能習得中のもの
・清掃又は片付けの業務に主として従事する者
・電気・情報通信・精密機械器具製造業の一部の作業に従事する者
3 地域別最低賃金の減額特例
雇用する労働者が以下のいずれかに該当するときは、最低賃金よりも減額された賃金を合意することも可能となります。ただし、最低賃金よりも減額された賃金を合意することを希望する使用者は、労基署長経由で都道府県労働局長にその旨申請し、許可を受けなければなりません。手続を経ずに独断で最低賃金を下回る賃金を支払うと違法となりますので気を付けましょう。
・精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
・試用期間中の者
・基礎的な認定職業訓練を受講中の者
・軽易な業務、断続的労働に従事する者
4 違反した場合のペナルティ
仮に労働契約において最低賃金未満で働くことの合意があってもその労働契約は最低賃金を約束した部分が無効という扱いになります。そのため、何らかのきっかけで労働者から労基署へ相談が入り、労基署で調査がなされ、その結果最低賃金に満たない金額しか支払っていないことなどが判明した場合、労基署からはまず、過去にさかのぼって賃金の差額の支払いをするよう命じられます。法改正により今後は5年分の支払い(改正前は2年分)となっていくことになりますので気を付けるようにしましょう。
また、賃金の遡っての支払いのほか、最低賃金法違反には罰則が定められております。地域別最低賃金額を下回っていた場合は50万円以下の罰金(最低賃金法法40条)が、特定(産業別)最低賃金額を下回っていた場合は30万円以下の罰金(労基法120条)が科せられる可能性があります。
5 最低賃金額に違反しているか否かの確認方法
最低賃金は主に時間額で定められており、日給制や月給制で賃金が支払われている場合は賃金額を時間当たりの金額に換算して比較します。例えば日給制についてはその金額を1日の所定労働時間で割った金額と最低賃金額とを比較します。2021年現在、仮に日給8000円で雇用している労働者がいるとして、その労働者の労働時間が7時間だった場合は、8000÷7=1143円(端数切り上げ)ですので神奈川の最低賃金1,040円を上回ります。しかし、8時間労働だった場合は8000÷8=1000円(端数切り上げ)ですので神奈川の最低賃金1,040円を下回るため、早急な改善が必要ということになります。
弁護士 阿部 貴之
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