退職勧奨

1 ケース

食品メーカーのY社は、近時業績が低迷していることから人員整理を行うことにした。
Y社は人員整理も兼ねて、問題社員に対して「退職勧奨」を行うことにした。

Y社の人事部長は、20代後半の社員Xに対して、退職勧奨を行うことにした。
Xは、同年齢の他の社員に比べると成績が悪く、勤務態度もよくなかった。人事部長は、他の社員も見聞きできる状況で「お前なんか会社のお荷物だからさっさとやめてしまえ」「このまま仕事を続けるというのであれば減給させてもらう」等と怒鳴り声をあげてXに退職を迫った。
Xは「やめるつもりはありません」と拒否していたが、このような退職勧奨が、2週間の間に4、5回程度、2時間にわたって行われていた。最終的にXは退職願を出した。

それから2か月後、Y社は、Xの代理人弁護士から、退職勧奨が違法であるとして損害賠償請求された。

2 退職勧奨とは?

退職勧奨とは、会社が社員に働きかけて退職を促すことをいいます。

解雇は、会社側の一方的な意思表示、つまり、社員側の同意なく雇用契約を終了させるものですが、退職勧奨はあくまで社員の自由な意思に基づく退職にむけて説得するものです。
つまり、強制的に雇用契約を終了させる効果があるかという点で差異があります。

したがって、退職勧奨によって社員が退職する場合、
・解雇権濫用法理:解雇に合理性、必要性がなければ、解雇が無効になる
・解雇予告:解雇の30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金の支払いをしなければならない
といった解雇に対する規制はかかりません。

ポイントは、解雇権濫用法理の対象とならないことにあります。したがって、整理解雇で必要になる4要件(要素)、すなわち、人員削減の必要性、解雇回避努力、選定の妥当性、手続の妥当性は不要となります。

そのため、Y社は、こうした点には注意することなく退職勧奨を行うことができますが、このケースのように、損害賠償請求を受けたり、退職に関する合意が無効になったりすることがあります。

3 退職勧奨の問題点は?

退職勧奨は、基本的に、内容・方法・手続について明確な法的規制はなく、会社側が自由に行うことができます。

ただし、会社側の働きかけが社会的相当性逸脱した場合、このケースのように、半強制的ないし執拗な退職勧奨を行った場合には、違法な行為として損害賠償請求が認められることになります。

また、同時に社員が自由な意思で退職を決定したと認められないときには、退職も無効となるリスクがあります。
そこで、次のような注意をする必要があります。

1 退職勧奨実施前の準備

・プライバシーや名誉に配慮して他の社員がいない場所を選ぶ
・ヒートアップしすぎないように会社側の人員は2人置く
・面談回数が多くなりすぎないように、事前に計画を立てて回数を決める
・紛争に備えて面談状況を録音やメモに残す

2 退職勧奨を実施する際の注意点

・言葉の内容に注意して、中傷や名誉にかかわるような言葉を使わない
・不利益措置(減給、降格等)を材料としない
・可能であれば退職金を多めに支給する等の代償措置をとる
・社員が明確に退職を拒否したときにはそれ以上の説得はしない
・退職に合意したときには、退職の条件について書面化し、退職合意書として署名・押印をもらう

4 まとめ

退職勧奨は、解雇とは違って、厳格な要件(要素)が必要とされません。しかし、一定の限界はあり、それを越えてしまうと、損害賠償請求されたり、退職が無効になったりします。

このような事態にならないように、どのように退職勧奨を行えばいいのか、退職合意書はどう作成すればいいか等について、ぜひ当事務所にご相談ください。

 

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弁護士法人シーライト

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