日本と海外との同一労働・同一賃金に対する考え方

1 ケース

Xは、大学を卒業した後、新卒で食品メーカーに入社した。
入社後、はじめて配属されたのは営業部で、勤務地は仙台だった。新卒で仕事の進め方もわからないうえ、生まれ育った湘南も離れてしまうことになったが、先輩から指導をうけて、何とか仕事ができるようになった。
現在は、新卒で入った会社に勤めて8年になり、東京の本社で人事部に配属されて後輩を指導している。

2 日本の雇用慣行と海外の雇用慣行

(1)メンバーシップ型雇用、ジョブ型雇用

実は、日本の雇用慣行は、海外と比較するとかなり特殊です。日本の雇用慣行は「メンバーシップ型雇用」と呼ばれるのに対して、海外の雇用慣行はいわゆる「ジョブ型雇用」であるといわれます。
2つの雇用慣行の違いは、人と仕事の結びつき方の違いにあらわれます。

ア メンバーシップ型雇用とは?

Xのように、新卒で会社に入った後は、ジョブ・ローテションを繰り返していろんな部署を経験し、勤務地も転勤を繰り返していろんな場所で働いて、定年まで勤めあげる。これが、従来の日本型の雇用慣行です。
すなわち、人を雇い入れてから仕事に割り振っていくイメージです。これをメンバーシップ型雇用といいます。

新卒一括採用定年という雇用の入口と出口を考えてみるとわかりやすいのですが、会社は、新卒社員をどこかの部署に誰かをわりあてて採用するのではありません。むしろ、様々な部署を経験させて、経験を積ませていきます。そして、雇用の出口としては定年制が設けられています。すなわち、一定の年齢に達した社員には定年という仕組みで退職してもらいます。定年制で足りなくなった労働力を新卒一括採用で一挙に雇い入れるという図式になります。

イ ジョブ型雇用とは?

ジョブ型雇用における雇用の入口と出口について考えてみましょう。
たとえば、aさんが出産や介護のために仕事をやめる場合「aさんがつとめていたポストAが空くことになったから、Aというポストに必要なスキルを持った人を外部から雇う」ことになります。

このように必要なときに、必要な資格、能力、経験のある人を、必要な数だけ採用する(欠員補充方式)のが海外の雇用慣行です。すなわち、仕事が先にあって,そこに人を割り当てていきます。これをジョブ型雇用といいます。

(2)賃金はどのように決定されるか?

上記で見た通り、ジョブ型雇用では仕事が先にあるので、ポストAにはすでに値付けが行われていることになります。
そのため、ポストAの仕事に就いた人には、その人の属性に関係なくそれに見合った賃金が支払われるべきということになります。すなわち、その仕事を行う必要な資格、能力、経験に応じて賃金を支払われる(職務給)ことになります。これが海外の同一労働・同一賃金の基礎にある考えです。

これに対して、日本のメンバーシップ型雇用では、人を雇い入れてから仕事を割り振ることになるので、賃金も仕事を中心に決められるのではなく、人を中心に決められることになります。

「ある人が、あるときはAという『仕事』をしており、またあるときはBという『仕事』をしていても、その人の賃金はそれらの『仕事』とは関係なく決められます。いわば、『仕事』に『この仕事はいくら』という『値札』がつけられるのではなく、『人』に『この人』はいくらという値札がつけられるわけです。」(濱口桂一郎「若者と労働『入社』の仕組みから解きほぐす」(中公新書ラクレ))とも言われています。

そうすると、海外のジョブ型雇用における「同一労働・同一賃金」の考え方を日本に輸入することができるのか?という疑問が生じてきます。
しかし、海外でも、賃金全てが職務給で決定されているわけではありません。たとえば、キャリア社員は非キャリア社員と比べると賃金が高く設定されていますが、これはキャリア社員と非キャリア社員の役割の違いを反映しているためであって、このような場合には海外においても同一労働・同一賃金に違反することはありません。

こうしたことから、日本においても「同一労働・同一賃金」という考え方を採用することができると判断され、法改正が行われてきました。

3 まとめ

法改正後、重要なことは、制度上正社員と非正社員の違いをはっきりさせることにあります。
たとえば、職務内容をはっきりさせるために「正社員はマネジメント業務を行う」「非正社員は簡易な事務作業を行う」「正社員にのみジョブ・ローテーション+広域な転勤等を課す等制度上の違いを設ける」ことが大事になります。

自社の制度を見直して、正社員と非正社員の職務内容の違いや位置づけをはっきりさせることが同一労働・同一賃金への対応の第一歩となります。

 

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弁護士法人シーライト

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