同一労働同一賃金施行後の対応手順
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1 ケース
X社は、神奈川県を本社として神奈川、東京、静岡において福祉事業を行っている。
X社には正社員の「一般スタッフ」と、非正社員の「事業所スタッフ」の2種類の社員がいた。
正社員の「一般スタッフ」は、期間の定めなくフルタイムで勤務しており、勤務地も神奈川、東京、静岡の範囲で変更されるうえ、ジョブローテーションもある。
これに対して、非正社員の「事業所スタッフ」は、フルタイムで勤務するものの、労働契約の期間は2年となっている。勤務地も、採用された事業所内に限られていて、職務も当該事業所内での業務の範囲に限定されている。両スタッフは、基本給の面では、正社員のみに職能給が支払われていた。
X社は、同一労働同一賃金に対してどのように対応すべきか悩んでいた。
2 現状把握
まずは、現状把握が大切です。社員の雇用形態、賃金制度は必ず把握しましょう。
(1)雇用形態
雇用形態把握のポイントとしては、
・ジョブローテーションの有無
・転勤の有無
・期間の定めの有無
・フルタイムの雇用なのか
・雇用形態に区別を設けている目的
といった点に着目して整理をすることになります。X社については、次のとおり整理できます。
ジョブローテーション | 転勤 | 期間の定め | フルタイム | |
一般スタッフ | ○ | ○ | × | ○ |
事業所スタッフ | × | × | ○ | ○ |
労働条件の違いから、正社員と非正社員の待遇差を正当化することができる場合があるので、上記の事項は必ずチェックしなければならないところです。
特に、ジョブローテーションの有無、転勤の有無は判例でも言及されています。
加えて、「どうしてそのような雇用形態に違いを設けているのか」も再度確認する必要があります。「自社において長期間働いて、マネジメント業務も行ってほしいから」「スキルはあるが、転勤には応じられないという人でも柔軟に働けるようにするため」といったことを明らかにしましょう。
こうした正当な目的が待遇差に反映されているときには、待遇差に合理性が認められることになります。
(2)待遇差
次に、待遇差の把握です。
基本給 | 賞与 | 退職金 | 手当 | |
一般スタッフ | 職務級+職能給 | ○ | ○ | ○ |
事業所スタッフ | 職務給 | × | × | × |
X社の場合、一般スタッフには賞与・退職金は支払われていて、基本給では職務給に加えて職能給が支払われているのに対して、事業所スタッフには賞与・退職金は支払われておらず、基本給も職務給だけです。
基本給については、一般スタッフにはジョブローテーションがあるということが待遇差の合理性を認める方向に働くひとつの事情となります。
また、実務上の問題点の多い手当に関しては、どのような支給要件に基づいて手当を支払っているのか、その手当を支払う目的等をあらためて考えてみることも重要です。
3 同一労働・同一賃金に向けた労働条件の変更
最後に、労働条件をどのように変更するのかを検討します。
このケースにおいて、専門スタッフに対して手当を支払っていなかったことが違法となった場合、解決策としては、「正社員の待遇を引き下げる」「非正社員の待遇を引き上げる」のどちらかになります。
(1)正社員の待遇を引き下げる場合
正社員の待遇を引き下げる場合は、正社員から訴訟提起されるリスクがあり「手当だから」と思って簡単に正社員の待遇を引き下げると、敗訴するリスクが高いです。
基本給、賞与、退職金、手当等の賃金は、重要な労働条件であることから、不利益に変更するには法律上のハードルが高くなり、そのような労働条件の切り下げは違法・無効となる可能性が高いです。
また、同一労働・同一賃金は、非正社員の労働条件を改善することで少子化や格差是正を図っているわけですから、正社員の労働条件を切り下げることは予定していません。この点でも、正社員の待遇を引き下げることは難しくなります。
(2)非正社員の待遇を引き上げる場合
この場合には、訴訟提起される危険性はありません。しかし、人件費負担は増大しますし、正社員の側に「責任の重い自分たちとあまり待遇が変わらないのはおかしい」と不満が生じる危険性があります。そのため、人事管理上の注意点にも配慮が必要です。
4 まとめ
同一労働・同一賃金に向けた労働条件の変更が必要な状況となっています。
しかし、上記で解説したとおり、正社員の待遇を引き下げて対応するにしても、非正社員の待遇を引き上げて対応するにしても、人事労務の専門家に相談することが得策です。
ぜひ、当事務所にご相談ください。
弁護士法人シーライト
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