ミスをした従業員へ損害賠償を請求したい

当事務所では、中小企業における労働問題(問題社員対応、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、解雇問題、メンタルヘルス・休職問題、ハラスメント対策等)について対応方法の提案や実施の支援をしています。

労働問題でお困りの経営者様やご担当者様はぜひ一度ご相談ください。

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1 神奈川県藤沢市内のC社からのご相談例

当社は藤沢市内で運送業を営んでいる零細企業です。

先日、配達を担当しているドライバー(D)が運転ミスをして自損事故を起こし、営業用のトラックが大きく破損してしまいました。そのせいでトラックの修理費用がかかっただけではなく、当該トラックで営業ができなくなった損害も発生し、大きなダメージを受けています。

もちろん当社では勤怠管理はきちんと行っており、ドライバーには残業もなるべくさせないようにしておりますし、過重労働などの実態はありません。Dは、当日飲酒運転をしていたのです。

当社はDへ事故の賠償金についての損害賠償を求めたいと考えているのですが、可能でしょうか?

2 従業員へ損害賠償できるケースとは

本件でC社のドライバーであるDは飲酒運転で自損事故を起こし、会社に損害を与えています。
このようなとき、C社はD個人へ損害賠償請求できるのでしょうか?
従業員が重大なミスをして会社に損害を与えた場合、会社は従業員へ損害賠償請求できる可能性があります。

2-1 債務不履行責任

労働者は会社との間で雇用契約を締結しており、その中で労働力を提供する義務を負っています。
当然その際には会社に余計な損害を与えないよう注意すべき義務も含まれるので、故意や不注意で会社に損害を生じさせると債務不履行責任が発生する可能性があります。

2-2 不法行為責任

民法には「不法行為責任」という責任類型も規定されています。これは、契約関係とは無関係に、故意や過失によって他人に損害を与えた場合に発生する責任です。

労働者が故意過失によって会社に損害を与えると不法行為責任が発生する可能性もあります。

3 従業員に損害賠償責任が発生する要件

労働者が故意や過失によって会社に損害を発生させたら、債務不履行責任や不法行為責任によって会社は労働者へ損害賠償請求できるのが原則です。

ただし使用者と労働者を比べると、労働者は明らかに弱い立場にあります。また使用者は労働者を働かせて利益を得ているので、損害についてもある程度は分担する必要があるといえるでしょう。
債務不履行責任や不法行為責任の一般原則をそのまま貫くと、労働者が不利益を受けてしまうおそれがあります。

そこで信義則や報償責任により、労働者のミスによって会社が労働者へ損害賠償できるケースは限定的に理解されています。

3-1 従業員に故意や重過失があることが必要

当事者間の公平や報償責任の考え方により、会社がミスをした従業員に損害賠償請求できるのは、従業員側に「故意」や「重過失」があるケースに限られます。

債務不履行や不法行為の一般原則では「故意または過失」があれば損害賠償請求できますが、雇用関係にある場合には「重過失」がないと請求できません。単なる「過失」では損害賠償請求が認められないので注意しましょう。

4 損害賠償額が減額される

会社が従業員のミスについて損害賠償請求する場合、発生した損害の全額を請求できるわけではありません。やはり労働者側の責任を制限する必要があるためです。

具体的に何分の1になるかはケースバイケースの判断となり、以下のような要素を考慮して定められます。

  • 労働者の責任の程度、ミスの悪質性
  • 労働者の職務内容や地位、労働条件
  • 使用者側のリスク管理体制

5 C社の場合

以上をC社のケースにあてはめると、どうなるのでしょうか?

Dは飲酒運転をしており、ドライバー職であることも考慮すれば重過失があるといえるでしょう。
よってC社はDへ損害賠償請求できる可能性が高いといえます。

一方で、もしもDが飲酒運転をしておらず単に自損事故を起こしただけであれば、重過失までは認められず損害賠償請求できない可能性が高かったでしょう。

請求できる損害額については状況に応じて判断されます。

C社が日頃から勤怠管理やドライバーの健康管理などに気を使っており、残業もほとんどさせておらず、Dの責任が重いといえるケースでは比較的高くなるでしょう。

反対に、C社がドライバーの健康に気遣わず長時間労働を強いていたようなケースでは、損害額が限定される可能性が高くなります。

6 事前の損害賠償額の取り決めや給与との相殺はできない

従業員がミスを犯して会社に迷惑をかけた場合に備え「事前に損害賠償額」を取り決めようとする方もおられるかもしれません。

しかし損害賠償額の事前の取り決めは認められないので注意しましょう。労働基準法では「損害賠償額の予定」を禁じているからです。

また給料は現金で全額支払わねばならないので、「損害賠償金と給料との相殺」も認められません。

C社がDへ損害賠償請求する際には、Dと話し合って任意に支払いを受けるか、訴訟等を起こして強制的に支払わせる必要があります。

7 従業員に対する損害賠償は弁護士へご相談ください

従業員のミスによって会社が損害を受けた場合の対応は、ケースによって異なります。そもそも損害賠償請求できるのか、できるとしてどの程度の賠償金を請求すべきか判断しなければなりません。

C社のようなドライバーのミスだけではなく経理のミス、営業マンのミスなどいろいろなミスの事例があります。お困りの際には一度弁護士までご相談ください。

 

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弁護士法人シーライト

弊所では紛争化した労働問題の解決以外にも、紛争化しそうな労務問題への対応(問題社員への懲戒処分や退職勧奨、労働組合からの団体交渉申し入れ、ハラスメント問題への対応)、紛争を未然に防ぐための労務管理への指導・助言(就業規則や各種内規(給与規定、在宅規定、SNS利用規定等)の改定等)などへの対応も積極的に行っておりますのでお気軽にご相談ください。

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